・・・商工業の急激な進歩、産業界全面の革新は一方に大英国の富をつみ上げてゆくと一緒に、その大都会の他の一方に猛烈な勢いで貧民窟と救民院の無力な活動と犯罪率の上昇とをうみ出した歴史的な一時代であった。心あるイギリス人は、この富と貧との新しい社会悲惨・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・明治の初期における社会の革新的な動き方は、日本の歴史に未曾有のものであった。当時の進歩的な人々が、腐れ果てた封建の殼から脱け出して、新しい日本人として発展しようとした欲望には、真実が籠っていた。例えば今日常に保守的或は反動的な役割を持ってい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・多くの困難があり、苦痛があるにしろ、私共は、とかく姑息になり勝ちな人間の意志を超えた力で、社会革新の地盤を与えられたことを、意味深い事実として知っているのだ。 女性としての生活の上からも、本当に生活に必須なことと、そうでないこととの区別・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・大学にいる間、秀麿はこの期にはこれこれの講義を聴くと云うことを、精しく子爵の所へ知らせてよこしたが、その中にはイタリア復興時代だとか、宗教革新の起原だとか云うような、歴史その物の講義と、史的研究の原理と云うような、抽象的な史学の講義とがある・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・に於けるが如く、プロットの進行に時間観念を忘却させ、より自我の核心を把握して構成派的力学形式をとることに於て、表現派とダダイズムは例えば今東光氏の諸作に於けるが如く、石浜金作氏の近作に於けるが如く、時間空間の観念無視のみならず一切の形式破壊・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・第三に、日本画で現代の浴室を、しかも全裸の女を描き得たということは、一種の革新である。現代に題材を取っても、できるだけ詩的な、現代離れのしたものを選みたがる日本画家の中にあっては、確かに注目に価することに相違ない。第四に構図と色彩とが成功で・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・古い仏画の内にはこの事を確信せしむる二三の例がある。これらの仏画を眼中に置いて現在の日本画を見れば、その弱さと薄さ、その現実を逃避する卑怯な態度などにおいて、明らかに絵の具の罪よりも画家の罪が認められるのである。色彩のみならず線の引き方にお・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
歌舞伎芝居や日本音曲は、徳川時代に完成せられたものからほとんど一歩も出られない。もし現在の日本に劇や音楽の革新運動があるとすれば、それは西欧の伝統の輸入であって、在来の日本が生み出したものの革新ではない。それに比べると日本画には内から・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・この政策の核心は、日本人に対する精神的指導権を、仏教から儒教に移した、という点にあるであろう。かかる政策を激成したものは、キリシタンの運動の刺戟であったと思われる。 秀吉がキリシタン追放令を発布してから六年後の文禄二年に、当時五十二歳で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・仏教の日本化を最も力強く推し進めて行ったのは阿弥陀崇拝であるが、この崇拝の核心には、蓮華の咲きそろう浄土の幻想がある。そういう関係から蓮華は、日本人の生活のすみずみに行きわたるようになった。ただに食器に散り蓮華があるのみでない。蓮根は日本人・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫