・・・哲学ずきさえも、もし美しく化粧することを忘れない程度ならサロンの風変りな花形として黙認した。つまり、あらゆる婦人のための学問教養が「客間用」として授けられた訳なのだ。これは、プーシュキンの初期の作品にもよく描かれている。 ところが、皮肉・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・に同じ作者によって書かれている自分の家系の物語、愛子物語をあわせ読むと、舟橋氏のヒューマニズムが一般人間性の観念にあやまられ、血肉の情に絡まって今日、どのような洞に頭を向けているかが実に明瞭に分るのである。 このハッピー・エンドのヒュー・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・七月に経済白書というものを発表して日本の生産経済の破産状態を告白した政府は、千八百円ベースをきめて、十一月には国民家計が三百円ほど黒字になるといった。ところが十一月には、あがった丸公につれてヤミまであがって、ヤミ買を拒絶した山口判事の死がつ・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・時の花形になったとき、英雄に仕立てあげたときだけ、さわぐ。 八月七日の時事新聞に「渡米選手晴れの壮行会」の写真が出ていた。ひとめ見て、何となしはっとした。村山主将が立ってマイクの前であいさつしている。左側に古橋、橋爪その他の選手たちが並・・・ 宮本百合子 「ボン・ボヤージ!」
・・・当時、帝政ロシアの文壇にはトルストイ、ツルゲネフ、アンドレーエフ、チェホフなどという世界の文学の花形が居ました。しかし、ゴーリキイの出現はロシアの文学にとってのみならず、当時の世界文学にとって一つの新しいおどろきとよろこびでした。何故なら、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・ 自分が現代の日本の恐ろしい窮乏にある農村の、しかも小地主の高等教育をうけた娘であるという事実、そのような娘との交渉においていろいろ家計のやりくりなどと絡んで動く田舎の親戚達の感情、その表現としての微妙な仕うちというようなものは、農村と・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・農村の小地主の娘に生れ、物わかりのよい家兄のおかげで東洋大学にはいった作者が、その上級生の頃から文学的創作の慾望を感じはじめた。そして卒業後は自活のために非常に種々の職業を経験しつつ、現在では「エプロンの裾をぬらして台所にはいずり廻る仕事」・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・そうだとすれば、どこの家の家計簿も、やすやすと世帯主三〇〇円、一人ます毎の一〇〇円也の預金引出しを算出しかねるわけである。この一点からも、モラトリアムで本当に困るのは、やっぱり金を持たぬ多数者というこれまで政府がとって来たおなじ方向の一つな・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・同じ常識の埒の中に暮らしても外で働いて経済的に自分の主人となっている男の生活は、あてがわれた家計の中で今のような世の中に辛苦することだけで明けそして暮れてゆく女の実際とは何といっても違ったところがある。 私たちは、そんな辛苦はつまらない・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・けれども、今日多くの若い職業婦人が大衆の貧困化から強いられて来ているように、家計の支持者であるとしたら、困難は実に大きい。若いサラリーマンの給料は妻を扶養するのもむずかしく思われるほどだのに、ましてその家族の負担などは考えることもできまい。・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫