・・・「董家山」の女主人公金蓮、「轅門斬子」の女主人公桂英、「双鎖山」の女主人公金定等は悉こう言う女傑である。更に「馬上縁」の女主人公梨花を見れば彼女の愛する少年将軍を馬上に俘にするばかりではない。彼の妻にすまぬと言うのを無理に結婚してしまう・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・すると女は不相変畳へ眼を落したまま、こう云う話を始めたそうです――「ちょうど今から五年以前、女の夫は浅草田原町に米屋の店を開いていましたが、株に手を出したばっかりに、とうとう家産を蕩尽して、夜逃げ同様横浜へ落ちて行く事になりました。が、・・・ 芥川竜之介 「捨児」
・・・それで一文の銭もなし家産はことごとく傾き、弟一人、妹一人持っていた。身に一文もなくして孤児です。その人がドウして生涯を立てたか。伯父さんの家にあってその手伝いをしている間に本が読みたくなった。そうしたときに本を読んでおったら、伯父さんに叱ら・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 叔母の家は古い郷士で、そのころは大分家産が傾いていたそうですが、それでも私の目には大変金持のように見えたのでございます。太い大黒柱や、薄暗い米倉や、葛の這い上った練塀や、深い井戸が私には皆なありがたかったので、下男下女が私のことを城下・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 主人の語るところによると、この哀れなきょうだいの父親というは、非常な大酒家で、そのために命をも縮め、家産をも蕩尽したのだそうです。そして姉も弟も初めのうちは小学校に出していたのが、二人とも何一つ学び得ず、いくら教師が骨を折ってもむだで・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・ところが最近の日本の学者の研究によると、この二つのものを別々でなく同時に作用させると両方の作用が単に加算的でなくてそれ以上に有効だということである。云わば一と一とで二以上になるというのである。お互いにセンシタイズするような作用をするらしい。・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・と一致する事が出来ず、家産を失うと共に盲目になった。そして栄華の昔には洒落半分の理想であった芸に身を助けられる哀れな境遇に落ちたのであろう。その昔、芝居茶屋の混雑、お浚いの座敷の緋毛氈、祭礼の万燈花笠に酔ったその眼は永久に光を失ったばかりに・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・雲如は江戸の商家に生れたが初文章を長野豊山に学び、後に詩を梁川星巌に学び、家産を蕩尽した後一生を旅寓に送った奇人である。晩年京師に留り遂にその地に終った。雲如の一生は寛政詩学の四大家中に数えられた柏木如亭に酷似している。如亭も江戸の人で生涯・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・改造社の主人山本さんが僕と博文館との間に立って、日に幾回となく自動車で往復している最中、或日の正午頃に一人の女がふらふらと僕の家へ上り込んで来て、僕の持っている家産の半分を貰いたいと言出した。これが事件の其二である。 博文館なるものはこ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述る者あり、文字改革の議を発する者あり。 いずれも皆、国の文明のために重・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
出典:青空文庫