・・・の如き、日清戦争後の軍人が、ひどく幅をきかした風潮を、皮肉りあてこすっている作品でも、将校はいゝのだが、下士以下が人の娘や、後家や、人妻を翫弄し堕落させるとしている。将校は営外に居住し得、妻帯し得るのに対して、下士以下兵卒は兵営に居住しなけ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・岡釣でも本所、深川、真鍋河岸や万年のあたりでまごまごした人とも思われねえ、あれは上の方の向島か、もっと上の方の岡釣師ですな。」 「なるほど勘が好い、どうもお前うまいことを言う、そして。」 「なアに、あれは何でもございませんよ、中気に・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・菅沼というにかかる頃、暑さ堪えがたければ、鍛冶する片手わざに菓子などならべて売れる家あるを見て立寄りて憩う。湯をと乞うに、主人の妻、少時待ちたまえ、今沸かしてまいらすべしとて真黒なる鉄瓶に水を汲み入るれば、心長き事かなと呆れて打まもるに、そ・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・納屋貸衆は多くの信ぜらるる納屋を有していて之を貸し、或は其在庫品に対して何等かの商業上の便宜を与えもしたで有ろうから、勿論世間の為にもなり、自分の為にも利を見たのであろう。夙に外国貿易に従事した堺の小島太郎左衛門、湯川宣阿、小島三郎左衛門等・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・をかけたは解けやすい雪江という二十一二の肌白村様と聞かば遠慮もすべきに今までかけちごうて逢わざりければ俊雄をそれとは思い寄らず一も二も明かし合うたる姉分のお霜へタッタ一日あの方と遊んで見る知恵があらば貸して下されと頼み入りしにお霜は承知と呑・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・りますると銭金を帳面のほかなる隠れ遊び、出が道明ゆえ厭かは知らねど類のないのを着て下されとの心中立てこの冬吉に似た冬吉がよそにも出来まいものでもないと新道一面に気を廻し二日三日と音信の絶えてない折々は河岸の内儀へお頼みでござりますと月始めに・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・なるべく末子の学校へ遠くないところに、そんな注文があった上に、よさそうな貸し家も容易に見当たらなかったのである。あれからまた一軒あるにはあって、借り手のつかないうちにと大急ぎで見に行って来た家は、すでに約束ができていた。今の住居の南隣に三年・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そればかりでなく、子供にあてがう菓子も自分で町へ買いに出たし、子供の着物も自分で畳んだ。 この私たちには、いつのまにか、いろいろな隠し言葉もできた。「あゝ、また太郎さんが泣いちゃった。」 私はよくそれを言った。少年の時分にはあり・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・それには河岸から買って来た魚の名が並べ記してある。長い月日の間、私はこんな主婦の役をも兼ねて来て、好ききらいの多い子供らのために毎日の総菜を考えることも日課の一つのようになっていた。「待てよ。おれはどうでもいいが、送別会のおつきあいに鮎・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そよ風になびく旗、河岸や橋につながれた小舟、今日こそ聖ヨハネの祭日だという事が察せられます。 ところがそこには人の子一人おりません。二人はまず店に買い物に行って、そこでむすめは何か飲むつもりでしたが、店はみんなしまっていました。「マ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
出典:青空文庫