・・・あまあがりや、風の次の日、そうでなくてもお天気のいい日に、畑の中や花壇のかげでこんなようなさらさらさらさら云う声を聞きませんか。「おい。ベッコ。そこん処をも少しよくならして呉れ。いいともさ。おいおい。ここへ植えるのはすずめのかたびらじゃ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 向うの葵の花壇から悪魔が小さな蛙にばけて、ベートーベンの着たような青いフロックコートを羽織りそれに新月よりもけだかいばら娘に仕立てた自分の弟子の手を引いて、大変あわてた風をしてやって来たのです。「や、道をまちがえたかな。それとも地・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
・・・さあ、これで花壇が出来上った。――得意なのは子供ばかりではなかった。誰からも忘れられていたような空地も、その花も咲かないひょろひょろした花壇を貰って嬉しがっているようであった。 ところが二日ばかりすると、雨の日になった。きつい雨で、見て・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・細い竹で仕切った枯れた花壇の傍の小使部屋では、黒い法被を着、白い緒の草履を穿いた男が、背中を丸めて何かしている。奥の方の、古臭いボンボン時計。――私は、通りすがりに一寸見、それが誰だか一目で見分ける。平賀だ。大観音の先のブリキ屋の人である。・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・ 短歌は日本の民族がもって来た文学のジャンルですから、それを破壊するより、そこに新しい真実と実感がもられるように、歌壇の下らない宗匠気風にしみないみなさまの御努力が希われます。 登龍のむずかしいアララギ派に云々とかかれている方のお言・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・その点で、この二百頁に満たぬ一冊の歌集がきょうの日本の歌壇に全く新しい価値をもって現れているという渡辺さんの言葉は確に当っていると思われます。そして、それぞれの歌がそれぞれの作者の生活の面を反映させているなかにも、私が心を動かされたのは、「・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・そこは花壇の隅の狭い芝生の上であった。ニコライの鐘楼と丸屋根が美しく冬日に輝いて、霜どけの花壇では薬草サフランと書いた立札だけが何にも生えていない泥の上にあった。由子はうっとり――思いつめたような恍惚さで日向ぼっこをした。お千代ちゃんは眩し・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・一つは、明治・大正・昭和に亙る聖代に日本古来の文学的様式である和歌の歩んで来た成果を収めて、今日の記念とする意味であり、他方には純粋に歌壇の歴史的概括としての集成の事業である。 この「新万葉集」のために歌稿をよせた作者の数は一万八千人で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・その目的にしたがい、日頃の訓練によって刻々の危険から身をかわしつつ、最大の科学性と敏捷と果断によって行動して、英雄的な成果をあげ得た。英雄的なものに対する感動はそのときむしろ手をつかねて傍観していた人々の心持を湧き立たすのであって、その消防・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・ 植木屋を手伝い、男――良人や男の子等は、花壇作り樹木の植つけ等を、分に応じて助力する。母親や娘は、彼女等の手芸、刺繍、パッチ・ウワーク等を応用して、暇々に、新たな壁紙に似合う垂帳、クッション、足台等を拵える。 公共建築や宮殿のよう・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫