・・・会社は若い娘の夢をもたせるために、工場の建物を白く塗って、きれいな花壇をつくったり演芸会をしたり、工場の内に女学校の模型のようなものをおいて、お茶や、お花などをやらせている。その若い娘たちの文化水準が、とりも直さず、日本の婦人の文化的水準の・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ひろい斜面に花や草で模様花壇がつくられていた。赤や緑の唐草模様だ。モスクワ劇場広場の大花壇のように星形でも、鎌と鎚とでもない。 ピーター大帝は曲馬場横の妙な細長い広場で永遠にはね上る馬を御しつづけ、十二月二十五日通りの野菜食堂では、・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・という村の相当の家に生れた長塚節は水戸中学を卒業しないうちに病弱で退学し『新小説』などに和歌を投稿しはじめた。 正岡子規が有名な「歌よみに与ふる書」という歌壇革新の歌論を日本新聞に発表したのは明治三十一年であった。当時十九歳ばかりであっ・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・ヒアシントや貝母も花壇の土を裂いて葉を出しはじめた。書斎の内にはサフランの鉢が相変らず青々としている。 鉢の土は袂屑のような塵に掩われているが、その青々とした色を見れば、無情な主人も折々水位遣らずにはいられない。これは目を娯ましめようと・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・縁に近い処には、瓦で築いた花壇があって、菊が造ってある。その傍に円石を畳んだ井戸があって、どの石の隙間からも赤い蟹が覗いている。花壇の向うは畠になっていて、その西の隅に別当部屋の附いた厩がある。花壇の上にも、畠の上にも、蜜柑の木の周囲にも、・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・その翌日になると、彼の政務の執行力は、論理のままに異常な果断を猛々しく現すのが常であった。それは丁度、彼の猛烈な活力が昨夜の頑癬に復讐しているかのようであった。 そうして、彼は伊太利を征服し、西班牙を牽制し、エジプトへ突入し、オーストリ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・彼女たちは薔薇の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。「さようなら。」「さようなら。」「さようなら。」 芝生の上では、日光浴をしている白い新鮮な患者たちが坂に成った果実のように累々として横たわっていた。・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・薪を割っている事もある。花壇を掘り返している事もある。桜ん坊を摘んでいる事もある。一山もある、濡れた洗濯物を車に積んで干場へ運んで行く事もある。何羽いるか知れない程の鶏の世話をしている事もある。古びた自転車に乗って、郵便局から郵便物を受け取・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫