・・・その有様は、心身に働なき孤児・寡婦が、遺産の公債証書に衣食して、毎年少々ずつの金を余ますものに等し。天下の先覚、憂世の士君子と称し、しかもその身に抜群の芸能を得たる男子が、その生活はいかんと問われて、孤児・寡婦のはかりごとを学ぶとは、驚き入・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・汽缶車の石炭はまっ赤に燃えて、そのまえで火夫は足をふんばって、まっ黒に立っていました。 ところが客車の窓がみんなまっくらでした。するとじいさんがいきなり、「おや、電燈が消えてるな。こいつはしまった。けしからん。」と云いながらまるで兎・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・日本にあふれている寡婦の涙をおもってください! と。けれども、同時に私たちは、身の毛のよだつおもいで省みずにいられないとおもう。日本の半封建の権力は、なんと文化そのものを美しさにおいて無力な、血なまぐさいものにしていたのだろうか、と。 ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・孤児と寡婦の人生がある。戦争の惨禍というものの人間的な深刻さは、侵略謀議者がどのように罰せられようとも、それでつぐないきれない人民生活の傷がのこされるからだ。人が人の命をうばうというおそろしい行為でその罪を罰したところで、東條英機の家族は、・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・十二年前、二人の娘とカルタで負けた借金をのこして良人が死んだ後、子供を育て、借金をかえし、現在ではパリで有名な衣裳店を開いている美しい中年の寡婦ジェニファーが、或る貴族の園遊会でコルベット卿にめぐり会い、その偶然が二人を愛へ導いて結婚するこ・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・ 四十を越した、神経質な寡婦が、子供をつれ、大切なものまで抱えておびえてあがるのに対して、私は、それは私もこわい、かかり合のかかり合になるのは迷惑だといえるだろうか。私は、男きれのない生活を始めて不安に感じた。しかし、私は弱音を吐くこと・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ポーランドの代表的な婦人作家エリイザ・オルゼシュコの「寡婦マルタ」という小説は、ヨーロッパの文化の間でも女の教養というものが飾りとして、嫁入道具としてだけ与えられていた結果、いざ本当にそれで食わなければならないとなったときに、知っていたはず・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ この事実は文学にも生きていて、たとえばポーランドの婦人作家オルゼシュコの小説「寡婦マルタ」の悲劇のテーマが、もしきょうの日本でもう社会的に解決されてしまった問題ならば、日本の数十万の未亡人の境遇は、すべての面でこんにちそれがあるように・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・同じ十九世紀に、ポーランドの婦人作家オルゼシュコの書いた小説「寡婦マルタ」を、きょう戦争で一家の柱を失った婦人たちがよむとき、マルタの苦しい境遇は、そのまま自分たちの悲惨とあまりそっくりなのに驚かないものはなかろう。 ところで日本の婦人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 婦人に決して熔鉱炉の前で火ダルマのようになって働く火夫の仕事は出来ない! 働く婦人は、いつも自分達で気をつけて職業病に打ち勝つようにしなければならないのです。 空気がゴミやガスでよごれている職場では、仕事の間にもきまって何分か・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
出典:青空文庫