・・・受身に私共の観賞を支配される形ではあるが、一都市が所有する美の蔵の公平な認識者、批評家として、趣味の浮浪人は暗黙の裡に重んぜられる当然の運命をもっている。何故なら、必要、不必要、自分に似合う似合わない、その他多くの購買者が必ず持つ私的条件を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ギリシア神話そのものにも、この婦人の立場はよくあらわれていて、たとえばヴィナスは描かれ彫られ、女性の美しさの典型と考えられているが、どの彫刻を見ても、いつもヴィナスは、見られるように観賞物としての女としてあらわれている。織ものをしているヴィ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・第七項にその国の内政に干渉する権能を国連に与えてはならないという条項が厳存している。わたしたち日本の婦人は、どういう戦争にも日本人民として「使用」されることを断る権利をもっている。日本と米国そのものが人民の平和より何より先に戦略的な地点とし・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・種々な人間が、天平、弘仁の造形美術の傑作を研究し、観賞しに奈良を訪ねる。本当の芸術愛好家なら、仏教の信仰をそのものとして奉持しなくても、美から来る霊的欽仰を仏像とその作者とに対して抱かずにはおられない。彼等は感歎し、讚美する。端厳微妙な顔面・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・ 従弟のような経験のある人は、地図をひろげて大体重要工業地帯と諸官省の中心地帯とをさした。地図の上で指されるそれらの地区は本郷区のぐるりのどこかに隣接してはいてもうちのある林町界隈までは距っていた。心配は直接本郷あたりが襲撃されることで・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・最も当惑することは、ヨーロッパ人が日本を観賞するそういうマンネリズムを、国内的に逆用される場合である。日本のねうちはそこなのだから、と外からの皮相的な日本を見る目を内へあてはめて、利用される場合である。そういう場合は、無邪気で無責任なそして・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・民主主義文学運動の批評が、すくなくともブルジョア文学における観賞批評でないことはあきらかだし、人民の民主主義的課題という広い基盤に結び合わされながら、文学の独自性において活動しなければならないことも分り切ったことだと思います。世界文学は、プ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・――都会人の観賞し易い傾向の勝景――憎まれ口を云えば、幾らか新派劇的趣味を帯びた美観だ。小太郎ケ淵附近の楓の新緑を透かし輝いていた日光の澄明さ。 然し、塩原は人を飽きさす点で異常に成功している。どんな一寸した風変りな河原の石にも、箒川に・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・と云われながら、垣の外に理由のない干渉をする一人の鼻をくじいて行くまだ十五のポーッとした子の気持を想うと、私まで胸がスウスウする様だ。 何にも、その子が私の大切な弟だからと云うのではないけれ共。 後で聞けば小屋のまとまりのつ・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・「これに反してバルザックは自分の観照の世界に満足してそれから一歩も外に出ようとしなかった」ことを指摘している。書簡は更に不自由そうに「哲学者は世界を様々に解釈して来た、しかし重要なことは云々というフォイエルバッハ綱領の中のマルクスの言葉はそ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫