・・・それでも婆さん、親分と名のつくものは感心だよ。いやおっかアに無理はねい。金公が悪い。金公金公、金公どうしたっていうもんだから、金公もきまり悪く元の所へ戻ってくると、その始末で、いやはよっぽどの見もんであったとよ」「そりゃおかしかったなア・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・と、お袋は三味を横へおろして、「よく覚えているだけ感心だ、わ。――先生、この子がおッ師匠さんのところへ通う時ア、困りましたよ。自分の身に附くお稽古なんだに、人の仕事でもして来たようにお駄賃をくれいですもの。今もってその癖は直りません、わ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・参詣人が来ると殊勝な顔をしてムニャムニャムニャと出放題なお経を誦しつつお蝋を上げ、帰ると直ぐ吹消してしまう本然坊主のケロリとした顔は随分人を喰ったもんだが、今度のお堂守さんは御奇特な感心なお方だという評判が信徒の間に聞えた。 椿岳が浅草・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・十数年以往文壇と遠ざかってからは較や無関心になったが、『しがらみ草紙』や『めざまし草』で盛んに弁難論争した頃は、六号活字の一行二行の道聴塗説をさえも決して看過しないで堂々と論駁もするし弁明もした。 それにつき鴎外の性格の一面を窺うに足る・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・が、既に右眼の視力を奪われたからには、霜を踏んで堅氷到るで、左眼もまたいつ同じ運命に襲われるかも計り難いのは予期されるので、決して無関心ではいられなかったろう。それにもかかわらず絶倫の精力を持続して『八犬伝』以外『美少年録』をも『侠客伝』を・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・褒められても貶されても余り深く関心しなかったろうし、自ら任ずるほどの作とも思っていなかった。 正直にいったら『浮雲』も『其面影』も『平凡』も皆未完成の出来損ないである。あの三作で文人としての名を残すのは仮令文人たるを屑しとしなくてもまた・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ 哀れな木の芽は、風のいうことをともかくも感心して聞いていましたが、「それなら、どうしたら、私は強くなるのですか。」と、木の芽は、風に問いました。 風は、いちだんと悲痛な調子になって、「それには、俺がおまえを鍛えるよりしかた・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・故に、社会は、また児童等の生活について、無関心たること能わぬのである。 夜業禁止や、時間制により、工場はある不幸な児童等は救はれたのであるが、尚、眼に見えざる場処に於ての酷使や、無理解より来る強圧を除くには、社会は、常に警戒し、防衛しな・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・同時に、正純な美について、愛について、また平和について、寸時も関心を怠ってはならぬと思うのであります。この種の児童文学こそ、次の新社会を建設する者のために、実に存在しなければならぬものでありながら、いまだに華々しくは出現しない。その原因は、・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・そんな訳で、奉公したては、旦那が感心するくらい忠実に働くのだが、少し飽きてくると、もういたたまれなくなって、奉公先を変えてしまうのです。 十五の歳から二十五の歳まで十年の間、白、茶、青と三つの紐の色は覚えているが、あとはどんな色の紐の前・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
出典:青空文庫