・・・くよどんでいる濠の水から、灘門の外に動くともなく動いてゆく柳の葉のように青い川の水になって、なめらかなガラス板のような光沢のある、どことなく LIFELIKE な湖水の水に変わるまで、水は松江を縦横に貫流して、その光と影との限りない調和を示・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・これは一つには日本の海岸線が長くて、しかも広い緯度の範囲にわたっているためもあるが、さらにまたいろいろな方向からいろいろな温度塩分ガス成分を運搬して沿岸を環流しながら相錯雑する暖流寒流の賜物である。これらの海流はこのごとく海の幸をもたらすと・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 後記 ルクレチウスの書によってわれわれの学ぶべきものは、その中の具体的事象の知識でもなくまたその論理でもなく、ただその中に貫流する科学的精神である。この意味でこの書は一部の貴重なる経典である。もし時代に応じて適当に・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・この町のガスはご存知の通り、石炭でなしに、魚油を乾溜してつくっているのですから。いずれ又お目にかかって詳しく申しあげましょう。」 この宣伝書を読んでしまったときは、白状しますが、私たちはしばらくしんとしてしまったのです。どうも理論上・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「そら、こっちが東でこっちが西さ。いまぼくらのいるのはここだよ。この円くなった競馬場のここのとこさ。」「乾溜工場はどれだろう。」ミーロが云いました。「乾溜工場って、この地図にはないね、こっちかしら。」 わたくしは別のをひろげ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 世相的、風俗的作品として、あれこれの小説が時代のただの反射として書かれていたとき、藤村は水面の波としてあらわれるそれ等の現象の底まで身を沈めて、日本のその時代を一貫する流のなかにあった寒流・暖流の交錯の悲劇にまでふれようと試みたのであ・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
出典:青空文庫