・・・他の平安幸福をば害すれども、おのずから害するを好まざるの証なり。また、いかなる盗賊にても博徒にても、外に対しては乱暴無状なりといえども、その内部に入りて仲間の有様を見れば、朋輩の間、自から約束あり、規則あり。すなわちその約束規則は自家の安全・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・家の内には情を重んじて家族相互いに優しきを貴ぶのみにして、時として過誤失策もあり、または礼を欠くことあるもこれを咎めずといえども、戸外にあっては過誤も容易に許されず、まして無礼の如きは、他の栄誉を害するの不徳として、世間の譏りを免るべからず・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 然るに彼の講和論者たる勝安房氏の輩は、幕府の武士用うべからずといい、薩長兵の鋒敵すべからずといい、社会の安寧害すべからずといい、主公の身の上危しといい、或は言を大にして墻に鬩ぐの禍は外交の策にあらずなど、百方周旋するのみならず、時とし・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・余興は講演とは別に許可をうけ、どれも皆数度公演ずみのものだのに「公安を害す」と禁止した。 現に地方などでは、「働く婦人」を一冊とるだけにさえうるさく妨害しているのであった。「……指導は誰がやっているんですか」 やがて清水が煙草に・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・しかるに幼少のころから、他人の感情を害すまい、他人の誤解を受けまいというふうな用心によって、卒直な感情の表出を統制するように訓練されて来たとなると、右のような態度そのものが、何となく浅はかなような、奥ゆかしさを欠いたものとして感ぜられるよう・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫