・・・たまたまそれを河内山にやる際に、幾分外部の事情に、強いられたような所があったにしても、彼の満足が、そのために、少しでも損ぜられる事なぞはないのである。 そこで、斉広は、本郷の屋敷へ帰ると、近習の侍に向って、愉快そうにこう云った。「煙・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・そうしてこの結合は、むしろそういう外部的原因からではなく、じつにこの両思想の対立が認められた最初から今日に至るまでの間、両者がともに敵をもたなかったということに原因しているのである。 魚住氏はさらに同じ誤謬から、自然主義者のある人々がか・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・その時、医師の言われるには、これは心臓嚢炎といって、心臓の外部の嚢に故障が出来たのですから、一週間も氷で冷せばよくなりますとのことで、昼夜間断なく冷すことにしました。 其の頃は正午前眼を覚しました。寝かせた儘手水を使わせ、朝食をとらせま・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・しかしそれかといって、外部からも、人格からも、規定されないで、意志を決定するという意味の自由は事実上存在しない。しからば自由の意識そのものは不可解のものになる。リップスもいうように、非決定論の自由は意欲が因果律に従うことをこばむものである。・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・というものさえ作っている、そして例えば、外部の「モップル」と連絡をとって、実際の運動と結びつこうとしたり、内では全部が結束して「獄内待遇改善」の要求を提出しようとしているそうだ。 彼奴等がわれ/\をひッつかんで、何処へ押しこもうとも、わ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・一、事務所のほうからは、決して保証人へ来いと電話せぬ。むこうのきびしく、さいそくせぬうちは、永遠に黙している。たいてい、二年、三年放し飼い。みんな、出ること許り考えている。一、外部との通信、全部没収。一、見舞い絶対に謝絶、若しく・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・赤熱した岩片が落下して表面は急激に冷えるが内部は急には冷えない、それが徐々に冷える間は、岩質中に含まれたガス体が外部の圧力の減った結果として次第に泡沫となって遊離して来る、従って内部が次第に海綿状に粗鬆になると同時に膨張して外側の固結した皮・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・この微妙な反応機巧は弦と弓とが一つの有機的な全系統を形成していて、そうして外部からわがままな無理押しの加わらない事が緊要である。しかし弓の毛にも多少のむらがあるのみならず、弓の根もとに近いほうと先端に近いほうとではいろいろの関係がちがうから・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・凍雨の方は上層で出来た雨滴が下層の寒冷な空気を通過するうちにだんだん冷却して外部から氷結し始めるということは、内部に水や不透明の部分のある事から推定される。また中層の温暖な層の上に雪雲がある場合には、そこから落ちる雪片の一部は中層を通る時に・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・そういう外部の物理的化学的条件だけではなくて、もっと大切な各樹個体に内在する条件があるのではないかと素人考えにも想像されるのであった。もちろん生物学をよく知らない自分にはほんとうのことはわからない。 この銀杏でもプラタヌスでも、やはり一・・・ 寺田寅彦 「破片」
出典:青空文庫