・・・それを外部に示さずに耐えている態度に叡智があるという風に処していたことも分る。ゲーテが現実生活に処して行ったようなやりかたを鴎外は或る意味での屈伏であるとは見ず、その態度にならうことは、いつしか日本の鴎外にとっては非人間的な事情に対してなす・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
現在の、特に日本の、不調和な社会状態のうちに生活しているわれわれ、殊に、外部的交渉をおおく持つ男性が、心的、物質的に疲労しているということは、否めない一つの事実でしょう。不安定は、一般の経済状態を考えただけで、勤労と休息と・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・昨今の外部的な条件は、例えばいつぞや『朝日新聞』が石坂洋次郎氏の小説をのせる広告を出したら、急にそれはのらないことになって坪田譲治氏の「家に子供あり」になったような影響を示す場合もあるけれどもそれは、文学にとっては相対的な条件であって、この・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・を必死に否定してあらゆる矛盾した外部の状況に受身に、無判断に盲従することを「民心一致」と強調した責任は、どこにあっただろうか。馬一匹よりもやすいものと命ぐるみ片ぱしから引っぱり出されたのは、人民である。やっと生きて帰って来た世間が冷たいのも・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・つづいて、野呂栄太郎が検挙され、このひとは宿痾の結核のために拷問で殺されなくても命のないことは明白であると外部でも噂されている状態だった。 一九三三年は、日本の権力が、共産党員でがんばっている者は殺したってかまわない、という方針を内外に・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・日本の社会生産と経済とは、封建のままの土地制度、耕農手段を基礎としていて、一握りの進歩的大名と、革新的下級武士と、外部からのヨーロッパ、アメリカとの力が結合して倒幕運動がおこされ、日本の近代企業、銀行、会社の創立は、すべて、政府の上からの保・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・今まで決して外部に向って話されたこともないような、いろいろの小さいがその価値は決して低くない正義心からの行動が、あの時代に、あちこちの学校や工場などの中にあったのではなかろうか。 平手うちを一つ受けても倒れるようなかよわい少女たちが、武・・・ 宮本百合子 「結集」
私が、ゴーリキイの評伝を一冊にまとめて見たいと思った動機は二つあった。一つは、どちらかというと外部的な事情であった。 ゴーリキイが亡くなった後、私は、数篇の感想や評伝的なものを書いたのでそれをきっかけとして、一冊の本に・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
・・・美術院の展覧する日本画が明らかに示しているように、この革新は外部の革新であって内部のそれではないのである。 美術院展覧会を一覧してまず感ずることは、そこに技巧があって画家の内部生命がないことである。東洋画の伝統は千年の古きより一年前の新・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・そうしてただ外部のさまざまな変化や状態にのみ注意を集中する。彼らの「自然に即け」という意味は、右の常識的な見方の埒外に出るなということに過ぎないのである。 で、彼らの強みは、一般の常識が認容するところをふりかざすにある。たとえば「こうい・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫