・・・「あたしがさっき撒いておいたんです。いつでもあそこへ餌を撒くんです」「あ、あれは足をどうかしてるようですね」 初やがすたすたとやってくる。紺の絆天の上に前垂をしめて、丸く脹れている。「お嬢さん」「何?」「いいや、男の・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ こんなに、何でもものがさかさまだったときのことですから、今から言えば、それこそ昔も昔も大昔の、そのまたずっとずっと昔のお話です。だから、いろんなおかしなことばかり出て来ます。しかし、けっしてうそではありません。 そのころ或国の王さ・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらいでした。けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。はがきをそっと学校のかばんにしまって、うちじゅうとんだりはねたりしました。 ね床にもぐってからも、山猫のにゃあとした顔や、その・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・その頸は途方もない向うの鼠いろのがさがさした胴までまるで管のように続いていた。大学士はカーンと鳴った。もう喰われたのだ、いやさめたのだ。眼がさめたのだ、洞穴はまだまっ暗で恐らくは十二時にもならないらしかった。・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫