・・・そしてそこから四、五間も来たかと思うころ、がたんとかけがねのはずれるような音を聞いたので、急ぎながらももう一度後を振り返って見た。しかしそこに彼は不意な出来事を見いだして思わず足をとめてしまった。 その前後二、三分の間にまくし上がった騒・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・ ――やがてだわね、大きな樹の下の、畷から入口の、牛小屋だが、厩だかで、がたんがたん、騒しい音がしました。すっと立って若い人が、その方へ行きましたっけ。もう返った時は、ひっそり。苧殻の燃さし、藁の人形を揃えて、くべて、逆縁ながらと、・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・Sがたんせいして世話したおかげで無事に三冬を越したのが三尾いた。毎朝廊下を通る人影を見ると三尾喙を並べてこっちを向いて餌をねだった。時おりのら猫がねらいに来るので金網のふたをかぶせてあったのがいつとなくさび朽ちて穴の明いているのをそのままに・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ がたんがたんと、戸、障子、欄間の張紙が動く。縁先の植込みに、淋しい風の音が、水でも打ちあけるように、突然聞えて突然に断える。学校へ行く時、母上が襟巻をなさいとて、箪笥の曳出しを引開けた。冷えた広い座敷の空気に、樟脳の匂が身に浸渡るよう・・・ 永井荷風 「狐」
・・・ 二人はびっくりして、互によりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方もないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。 扉の内側に、また変なことが書いてあ・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・ とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶって、上の白い横木を斜めに下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。 つまりシグナルがさがったというだけのことです。一晩に十四回もあることなのです。・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
出典:青空文庫