・・・メイエルホリドは、ソヴェト演劇の舞台は、がっしりよく組たてられた自動車、フォードが持つ美を、もたなければならないと、云っている。 この点について、非常に微妙な一つの面白い観察が下される。 成程自動車は、実用の美をもっている。全体の構・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・五年の間、自分達は、その、がっしりとした体躯の、色の黒い女教師の下に育てられて来たのだ。大抵の者は、もう人の妻となり、或は親となっていても、彼女の眼を見ると、皆、仲間同士の正直な、打明けた表情は圧せられてしまう。堅くなり、他人行儀になり、生・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ がっしり天井の低い低い茶っぽい食堂の壁に、夥しく花鳥の額、聯の類が懸っている。棚には、紅釉薬の支那大花瓶が飾ってある。その上、まだ色彩の足りないのを恐れるかのように、食卓の一つ一つに、躑躅、矢車草、金蓮花など、一緒くたに盛り合わせたの・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・年寄りはあんな大男の息子を助けた男というだけで、もっとずーッと体も心もがっしりした元気な男を期待していたところへ現われた彼は、余りすべてにおいて思いがけない。 おばあさんは、何だか滑稽なような、お礼を云うのも馬鹿らしいような気持になって・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 現実のいりこんだ関係がこんにちのように複雑になると、これまでのせまい創作方法ではその全部の内容をいちどきにつかみとることができなくなって、リアリズムなんかは古くさい、何かもっと現代をがっしりつかむ創作方法を、という要求も起る。日本のジ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・往来を晴着を着た娘達が通り、釣竿をかついだ子供が走り、がっしりとした百姓たちが、店の連中、そこにかたまっている群を斜に見、黙って縁なし帽やフェルト帽をあげながら通って行った。その夕方、ロマーシはどこかへか出て行った。小屋に独りいたゴーリキイ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・傍には骨の太い、がっしりした行燈がある。燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色の火が、黎明の窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具葛籠にしまってある。 障子の外に人のけはいがした。「申し。お宅から急用のお手紙が参りました」・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫