・・・朝野の貴顕紳士と称する俗輩が、何々の集会宴会と唱えて相会するは、果して実際の議事、真実の交際の為めに必要なるや否や。十中の八、九は事を議するが為めに会するに非ず、議事の名を利用して集るものなり。交際の為めに飲むに非ずして飲む為めに交わるもの・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この少年をして政治・経済の書を読ましむるは危険に非ずや。政治・経済、もとよりその学を非なりというに非ざれども、これを読みて世の安寧を助くると、これを妨ぐるとは、その人に存するのみ。 余輩の所見にては、弱冠の生徒にしてこれらの学につくは、・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・なく、政権は維新功臣の手に在りて、その主義とするところ、すべて文明国の顰に傚い、一切万事寛大を主として、この敵方の人物を擯斥せざるのみか、一時の奇貨も永日の正貨に変化し、旧幕府の旧風を脱して新政府の新貴顕と為り、愉快に世を渡りて、かつて怪し・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・もし投げたる球が走者に中れば死球といいて敵を殺さぬのみならずかえって防者の損になるべしされば走者がこの危険の中に身を投じて唯一の塁壁と頼むべきは第一第二第三の基なり。けだし走者の身体の一部この基(坐蒲団に触れおる間は敵の球たとい身の上に触る・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・(私は全体何をたずねてこんな気圏の上の方、きんきん痛 私はひとりで自分にたずねました。 こけももがいつかなくなって地面は乾いた灰いろの苔で覆われところどころには赤い苔の花もさいていました。けれどもそれはいよいよつめたい高原の悲痛・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・私はいままでに、こんな危険に迫った仕事をしたことがない。」「十日のうちにできるでしょうか。」「きっとできる。装置には三日、サンムトリ市の発電所から、電線を引いてくるには五日かかるな。」 技師はしばらく指を折って考えていましたが、・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・どうも六百からの棄権ですからな。」 なんて云っている人もあり一方ではそろそろ大切な用談がはじまりかけました。「ええと、失礼ですが山男さん、あなたはおいくつでいらっしゃいますか。」「二十九です。」「お若いですな。やはり一年は三・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・然るに今日は既にビジテリアン同情派の堅き結束を見、その光輝ある八面体の結晶とも云うべきビジテリアン大祭を、この清澄なるニュウファウンドランド島、九月の気圏の底に於て析出した。殊にこの大祭に於て、多少の愉快なる刺戟を吾人が所有するということは・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして、いつぞやの早まわりで賞品としてもらった小型フォードにのりこみ、ミュンヘンに潜入し、危険をおかしてひとたびはすてた家に忍びこんだ。そして原稿を盗み出し、真夜中に、もう二度とみる希望のないその家を去った。 二・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・また、何度、どうせ棄権さ、という言葉をきかされて来たであろう。選挙準備の期間を通じて、新聞が報じたのは、選挙に対する一般の気のりうす、低調ということであった。 ところが、いよいよ結果が検べられてみると、先ず棄権率が非常にすくなかったこと・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
出典:青空文庫