・・・ そういうある日の快晴無風の午後の青空の影響を受けたものか、近頃かつて経験したことのないほど自由な解放された心持になって、あてもなく日本橋の附近をぶらぶら歩いているうちに、ふと昨日人から聞いた明治座の喜劇の話を想い出してちょっと行って覗いて・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・いうものはあるが、ピタゴラスという哲学者は実は架空の人物だとの説もあるそうで、いよいよ心細くなる次第であるが、しかしこのピタゴラスと豆の話は、現在のわれわれの周囲にも日常頻繁に起りつつある人間の悲劇や喜劇の原型であり雛形であるとも考えられな・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・それを基礎として喜劇というものが悲劇ならびに一般芸術に対してもつ特異の点を論じたり、笑いの社会道徳的意義を目的論的な立場で論じたりしている。 読んでいるうちにいろいろ有益な暗示も受けるし、著者の説に対する一二の疑いも起こった。しかしこれ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・然るに、この良民が家にありて一部の経世書を読むか、または外に出でて一夜の政談演説を聴き、しかもその書、その演説は、すこぶる詭激奇抜の民権論にして、人を驚かすに足るものとせん。ここにおいて、かの良民は如何の感をなすべきや。聾盲とみに耳目を開き・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・「まるでジョン・ヒルガードそっくりだ。」「ジョン・ヒルガードって何です。」私は訊ねました。「喜劇役者ですよ。ニュウヨーク座の。けれどもヒルガードには眉間にあんな傷痕がありません。」「なるほど。」 そのあとはもう異教徒席も・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
久し振りで女優劇を観る。 番組に一通り目を通しただけでも、いつもながら目先の変化に苦心してある様子が窺われる。一番目「恋の信玄」から始って、チェーホフの喜劇「犬」に至る迄、背景として取入れられている外国の名を列挙したば・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・父の五十五回目の誕生日のとき、ベルリン大学にいた十九歳のカールはお祝として、それ迄につくった四十篇の詩と、悲劇の一幕と、喜劇小説の数章とをまとめて「永久の愛のわずかなしるしとして」この高貴な人がらをもつ父に贈った。或る人はいっている。カール・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・という現代諷刺喜劇が上演されて、好評を博した。なかに新聞記者が記事作成の上に加えられる不便をかこった科白がある。日独協定のことについて、書かれるべき感想は更に多くあるのであろうが、お定の記事が、一等国の大新聞社会欄をあれほどの場面で占め得る・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・大戯曲家シェクスピアは、大胆な喜劇的効果として、パックの草汁をつかったのであろう。彼の時代の観客は、その騒々しい粗野な平土間席で、昨日帝劇の見物がそれを見て大いに笑ったその笑いの内容で、笑って見物したであろうか。この世にありえないことがわか・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・一九二八――二九年の例をとって見るとソヴキノでは、芸術映画 五三同 喜劇 八児童用 九文化啓蒙 九〇という数にのぼっている。どんな芝居、どんな映画にしろ、それがソヴェト権力確立後につくられた・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫