・・・「だって女の気じゃあいくらわたしが気さくもんでも、食べるもん無し売るもんなしとなるのが眼に見えてちゃあ心配せずにゃあいられないやネ。「ご道理千万に違えねえ、これから売るものア汝の身体より他にゃあ無えんだ。おれの身体でも売れるといいん・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・ と重ねて申しますと、「そのほうがよろしいのでしたら、そうします」 と気さくに承知して、土間に出て行きました。 ご亭主は土間のお客を一わたりざっと見廻し、それから真っ直ぐに夫のいるテーブルに歩み寄って、その綺麗な奥さんと何か・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ 余輩常に思うに、今の諸華族が様々の仕組を設けて様々のことに財を費し、様々の憂を憂て様々の奇策妙計を運らさんよりも、むしろその財の未だ空しく消散せざるに当て、早く銘々の旧藩地に学校を立てなば、数年の後は間接の功を奏して、華族の私のために・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫