・・・俗習慣を書くことを目的としたものや、あるいはその地の政治経済教育の有様より物産に至るまで細かに記する事を目的としたもの、あるいは個人的に旅行の里程、車馬の賃、宿泊料などの事を一々に記したもの、あるいは記事の方は極めて簡略に書いて、ただ文章を・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・大きじゃぃ。こったに大きじゃぃ。」 善コも一杯つかんでいました。「俺家のなもこの位あるじゃぃ。」 稲ずまが又白く光って通り過ぎました。「あ、山山のへっぴり伯父。」嘉ッコがいきなり西を指さしました。西根の山山のへっぴり伯父は月・・・ 宮沢賢治 「十月の末」
・・・という記事を思いおこした。政府は重要産業の補償をうち切って、百万人の失業者を出すそうだが、その百万人の人々とその家族、その主婦たちにとって、この威風にみちた秋田の稲田のことしのみのりは、どういうものになって現れるのだろう。 政府がきめる・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・謂わばそれらの賞によって文学を産む素地の萎縮を救い得るかのように考えた既成作家の文学観が問わるべきであろう。社会の現実の内で所謂知識階級と民衆との生活の游離が純文学を孤立化せしめた動機であることに疑ないのである。 ヒューマニズムの問題に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、現実の文壇処世としては、一般の教養的素地の未熟さを逆に反映してのこけおどしの教養ぶりも出現した。その意味では、この時期における教養尊重の風は、漱石時代より萎靡したものであったと云い得るのである。 幾変転を経て、今日、私たち作家は・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・「そして老舗となる素地を蓄えたのである」「戦後のハッタリ精神とヤミの没落は文学の面でも象徴的であった」火野葦平は文学に対する同人雑誌の任務、出版関係が「昔にかえった」ことを慶祝している。 戦後の出版界の空さわぎは、出版社というものが、つ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・日本の文学精神が変らずにはすまない素地は歴史のこの辺のところに在るかもしれないのだ。 こんにちの空虚であって、しかもジャーナリズムの上での存在意欲ばかりはげしい文学現象を、現代人の「楽しみというものは、だんだん贅沢になるから、小説だって・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作家と作品を成長させて来たばかりでなく、当時既に作家としてある程度の活動と業績を重ねた作家たちをも、各自の角度に従ってこの文学運動の中に引き入れた。先に触れた藤森成吉、秋田雨雀のほか片岡鉄・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そこでその手が血に染んでいないことだけはたしかな永井荷風の作品、谷崎潤一郎の作品などが、当時の営利雑誌に氾濫し、ある意味で今日デカダンティズム流行の素地をつくった。そして、戦争の永い年月、人間らしい自主的な判断による生きかたや、趣味の独立を・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫