・・・ ――――――――――――――――――――――――― 十分ほど前、何小二は仲間の騎兵と一しょに、味方の陣地から川一つ隔てた、小さな村の方へ偵察に行く途中、黄いろくなりかけた高粱の畑の中で、突然一隊の日本騎兵と遭遇・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・は、十六世紀の初期に当って、ファディラの率いるアラビアの騎兵が、エルヴァンの市を陥れた時に、その陣中に現れて、Allah akubarの祈祷を、ファディラと共にしたと云う事が書いてある。すでに彼は、「東方」にさえ、その足跡を止めている。大名・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・ 二 間牒 明治三十八年三月五日の午前、当時全勝集に駐屯していた、A騎兵旅団の参謀は、薄暗い司令部の一室に、二人の支那人を取り調べて居た。彼等は間牒の嫌疑のため、臨時この旅団に加わっていた、第×聯隊の歩哨の一人に、今・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・わたしはいつでもアフリカから、百万の黒ん坊の騎兵と一しょに、あなた方の敵を征伐に行きます。わたしはあなたを迎えるために、アフリカの都のまん中に、大理石の御殿を建てて置きました。その御殿のまわりには、一面の蓮の花が咲いているのです。どうかあな・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・(翼ッて聞いた時、莞爾笑って両方から左右の手でおうように私の天窓を撫でて行った、それは一様に緋羅紗のずぼんを穿いた二人の騎兵で――聞いた時――莞爾笑って、両方から左右の手で、おうように私の天窓をなでて、そして手を引あって黙って坂をのぼっ・・・ 泉鏡花 「化鳥」
・・・ 不意に橋の上に味方の騎兵が顕れた。藍色の軍服や、赤い筋や、鎗の穂先が煌々と、一隊挙って五十騎ばかり。隊前には黒髯を怒らした一士官が逸物に跨って進み行く。残らず橋を渡るや否や、士官は馬上ながら急に後を捻向いて、大声に「駈足イ!」・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・蹄で落葉を蹶散らす音、これは騎兵演習の斥候か、さなくば夫婦連れで遠乗りに出かけた外国人である。何事をか声高に話しながらゆく村の者のだみ声、それもいつしか、遠ざかりゆく。独り淋しそうに道をいそぐ女の足音。遠く響く砲声。隣の林でだしぬけに起こる・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・この路に入りては人にあうことまれに、おりおり野菜の類を積みし荷車ならずば馬上巻煙草をくわえて並み足に歩ませたる騎兵にあうのみ。今朝もかれはこの路を撰びてたどりぬ。路の半ばに時雨しめやかに降り来たりて間もなく過ぎ去りし後は左右の林の静けさをひ・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・出動部隊は近衛師団、第一師団のほか、地方の七こ師団以下合計九こ師団の歩兵聯隊にくわえて、騎兵、重砲兵、鉄道等の各聯隊、飛行隊の外、ほとんど全国の工兵大隊とで、総員五万一千、馬匹一万頭。それが全警備区に配分されて、配給や救護や、道路、橋の修理・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・そのうちに騎兵は、「うわあッ。」と、ときの声を上げて、王子たちのじき後まで追いつめて来ました。王女は王子にけががあってはたいへんだと思って、おおいそぎで、かぶっている顔かけを引きはなしました。そのときちょうど、風は兵たいの方へ向けてふい・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
出典:青空文庫