・・・ わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現在は××写真師のステュディオなる□□街第二百五十一号に臨時調査会を開催せり。列席せる会員は下のごとし。 我ら十七名の会員は心霊協会会長ペック氏とともに九月十七日午前十時三十分・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・滝田君の旧宅を尋ねて行った。滝田君の旧居は西片町から菊坂へ下りる横町にあった。僕はこの家を尋ねたことは前後にたった一度しかない。が、未だに門内か庭かに何か白い草花の沢山咲いていたのを覚えている。 滝田君は本職の文芸の外にも書画や骨董を愛・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・ と急遽して、実は逃構も少々、この臆病者は、病人の名を聞いてさえ、悚然とする様子で、 お鉄(此奴あ念を入れて名告は袖屏風で、病人を労っていたのでありますが、「さあさあ早くその中へ、お床は別々でも、お前さん何だよ御婚礼の晩は、女が・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・先生は震災の後まで向嶋の旧居を守っておられた。今日その人はなお矍鑠としておられるが、その人の日夜見て娯みとなした風景は既に亡びて存在していない。先生の名著『言長語』の二巻は明治三十二、三年の頃に公刊せられた。同書に載せられた春の墨堤という一・・・ 永井荷風 「向嶋」
出典:青空文庫