・・・とにかく、長き脇指には驚愕した。「行燈ゆりけす」という描写は流石である。長き脇指を静かに消してしまった。まず、まずどうにか長き脇指の仕末がついて、ほっとした途端に、去来先生、またまた第三の巨弾を放った。曰く、 道心のおこりは花のつぼ・・・ 太宰治 「天狗」
・・・どうせ露見する事なのに、一日でも一刻でも永く平和を持続させたくて、人を驚愕させるのが何としても恐しくて、私は懸命に其の場かぎりの嘘をつくのである。私は、いつでも、そうであった。そうして、せっぱつまって、死ぬ事を考える。結局は露見して、人を幾・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 母は驚愕した。ひきとめる節子をつきとばし、思慮を失った者の如く、あああと叫びながら父のアトリエに駈け込み、ぺたりと板の間に坐った。父の画伯は、画筆を捨てて立ち上った。「なんだ。」 母はどもりながらも電話の内容の一切を告げた。聞・・・ 太宰治 「花火」
・・・それまでは、私は、あまりの驚愕に、動顛して、震えることさえ忘却し、ひたすらに逆上し、舌端火を吐き、一種の発狂状態に在ったのかも知れない。「たしかに、いたのだ。たしかに。まだ、いるかも知れない。」 家内は、私が、畳のきしむほどに、烈しく震・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・(驚愕まあ、あなたは何という事をおっしゃるのです。まるでそれではごろつきです。何の純情なものですか。あなたのような人こそ、悪人というのです。帰って下さい。お帰りにならなければ、人を呼びます。静かにしなさい。これが見えませんか。今夜は・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・子供の笑いの中で典型的だと思うのは、第一に何かしら意外な、しかしそれほど恐ろしくはない重大ではない事がらが突発して、それに対する軽い驚愕が消え去ろうとする時に起こるものである。たとえば人形の首が脱け落ちたり風船玉のようなものが思いがけなく破・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・当時我国興行界の事情と、殊にその財力とは西洋オペラの一座を遠く極東の地に招聘し得べきものでないと臆断していたので、突然此事を聞き知った時のわたくしの驚愕は、欧洲戦乱の報を新聞紙上に見た時よりも遥に甚しきものがあった。 五年間に渉った欧洲・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・すんだよ、と怖がる者を面白半分前へ突き出す、然るにすべてこれらの準備すべてこれらの労力が突き出される瞬間において砂地に横面を抛りつけるための準備にしてかつ労力ならんとは実に神ならぬ身の誰か知るべき底の驚愕である。 ちらほら人が立ちどまっ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 学校でも共学をはじめた。そういう大学がいくつかある。その学生たちと話してみると、やはりそこでもまだ男女は十分共学されていない。大学などでは一種のアカデミックな社交性というようなもので綺麗ごとに共学されていて、たとえばアメリカの大学の社・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・日本の女学校教育は特別なものであったから、共学がはじまってまだほんの僅かしかたたない今日、女子学生が男の学生に比較してあとにいるという事情にも無理もないところがあります。日本の民主化されていない家庭では、女の負担が実に多い。それでもまじめな・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫