・・・たとえば共学を例にとっても。 現在、大学や専門学校を卒業しようとしている年代の若いひとびとは、その中学校の時代を、共学どころか、人間の理性や感情さえ戦争で圧しひしがれた青春としてすごさせられた。だから大学や専門学校でにわかに共学がはじま・・・ 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
・・・直木三十五は持前のきかん気から中間層のインテリゲンチャが、ファッショ化と共に人道主義的驚愕を示し然も自身では右へも左へも、ハッキリした態度を示し得ないことに憤慨して、「俺は此の世に恐ろしいものはない。ファッシストにだってなって見せるぞ」と大・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・、彼女が生れた時代のイギリスの習慣の保守的な重み、第二は彼女が特に上流の淑女であるという重み、その二つの石は、やっとフロレンスが自分の人生に目的を見出して、看護婦になりたいといい出した時、先ず母夫人の驚愕、涙となってあらわれた。フロレンスは・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ 学生たちは、互に幼稚園時代から共学でやって来てる。一緒に働き、遊び、男の子たちは、女の子がヒステリーを起して卒倒するのから、学生大会で、雄弁をふるうのまで見てる。男の子が、どんなに確りしてると同時に妙な奴が時々あるか、女の学生だって知・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
・・・ 母親の育った時代、いわゆる女学校教育はあったけれども、それはきまった内容だったし、人間交渉の課題として、いまあらわれている男女共学もなかった。 姉の時代は学徒動員で、そこには青春の破壊とそれによって不具にされた若さがある。 い・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・しかし、現実生活の隅々が落着いて目に映りはじめた時、婦人は男が還ったという喜び以上の、新しい驚愕と不安に、心づいたと思う。終戦直後、大きな軍需会社は即日職員の解雇をした。そして、一人当りいくらかの纏まった金を、解雇手当として与えた。軍人は部・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 佐佐の顔には、不意打ちに会ったような、驚愕の色が見えたが、それはすぐに消えて、険しくなった目が、いちの面に注がれた。憎悪を帯びた驚異の目とでも言おうか。しかし佐佐は何も言わなかった。 次いで佐佐は何やら取調役にささやいたが、まもな・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・却説去廿七日の出来事は実に驚愕恐懼の至に不堪、就ては甚だ狂気浸みたる話に候へ共、年明候へば上京致し心許りの警衛仕度思ひ立ち候が、汝、困る様之事も無之候か、何れ上京致し候はば街頭にて宣伝等も可致候間、早速返報有之度候。新年言志・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・母親は知らない人から突然口をきかれて、ほとんど敵意に近い驚愕の色を浮かべた。私が「もうすぐ来ます」と言った時には、あわてて立ち上がって、私に礼を言うどころでなくむしろ当惑したような顔つきで、早口に老人や子供をせき立てた。もう彼女の心には私の・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫