・・・を一つの典型とするのみで、土の文学を唱道する作家たちの活動や大正年代に吉江喬松・中村星湖・犬田卯等によってつくられた農民文学会の活動などが、特にめざましい文学上の収穫を齎して来ていないことは、注目すべきことである。農民文学のかような歴史の断・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・それぞれの人の為人の高低がそこに語られているばかりでなく、婦人そのものの社会的自覚が、その頂点でさえもなお遙かに社会的には狭小な低い視野に止っていた日本の女の歴史の悲しい不具な黎明の姿を、そこに見るのである。 景山英子は、その生涯の間に・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 一九四九年九月二十一日から十日間、北京で開催された人民政治協商会議第一回全体会議の第一日に行われたあなたの演説が、日本で読まれています。「いまやこの国には活気があふれている。中国人民は、前進しており、革命の気にあふれている。これは・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・そして、そういう孤立的な少数の女性は、一人や二人しんから解り合う友もない程、女性の世界は狭小で未熟である、自分の生れた国の乏しさを歎くより、とかく孤立の程度を自己の卓越の程度と同一視する。侘しい限りだ。 私は、四五年来、何処からかいつか・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・ 或る程度まで達するうちには、この無智な、狭小な魂の所有者である自分は、たくさんの苦痛と涙と、悔恨とに遭遇しなければならないのは、明かに予知されます。茫漠たる原野に、一粒ずつの金剛砂を求めて行くような労力と、収穫の著しい差異も、覚悟して・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・淑貞の「顔一杯の嬌笑、それは驚きと喜びと情熱の哄笑です。生々とした眸、むき出された雪白の歯、こうした笑いをC女史は十年この方絶えて見たことがありませんでした」戦慄が、C女史の体を貫いて走った。名状しがたい感激がわき上った。「驚きではない、怒・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・田舎風な都会、一年の最高頂の時期は、罵声と殴り合いの合奏する巨額な金の集散、そのおこぼれにあずからんとする小人の詭計の跳梁、泥酔、嬌笑に満ち、平日は通俗絵入新聞が地方客に向って撒く文化を糧としつつ、ヴォルガ沿岸の農民対手の小商売で日暮してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・食べながら遠いところのどっかへ向って腰をひねり、嬌笑した。失うべきものを持たぬロンドン人が月の下の街やのれんの奥にいた。 ホワイト・チャペル通でドイツ賠償問題に関する共産党の路傍演説が終った。「ミスター・フィリップ・スノウデンは勝った。・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・しかしそれは間違いではないまでもあまりにその解釈力が狭小であったことは認めねばならぬ。ある一つの有力な賓辞に対する狭小な認識はそれが批評となって現わされたとき、勿論芸術作品の成長範囲をも狭小ならしめることは、一例を取るまでもなく明かなことで・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫