・・・僕はだんだん八犬伝を忘れ、教師になることなどを考え出した。が、そのうちに眠ったと見え、いつかこう言う短い夢を見ていた。 ――それは何でも夜更けらしかった。僕はとにかく雨戸をしめた座敷にたった一人横になっていた。すると誰か戸を叩いて「もし・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・その小説の主人公は革命的精神に燃え立った、ある英吉利語の教師である。こうこつの名の高い彼の頸はいかなる権威にも屈することを知らない。ただし前後にたった一度、ある顔馴染みのお嬢さんへうっかりお時儀をしてしまったことがある。お嬢さんは背は低い方・・・ 芥川竜之介 「お時儀」
一 僕は小さい時に絵を描くことが好きでした。僕の通っていた学校は横浜の山の手という所にありましたが、そこいらは西洋人ばかり住んでいる町で、僕の学校も教師は西洋人ばかりでした。そしてその学校の行きかえり・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・科目は教師が黒板に書いて教授するのを、筆記帳へ書取って、事は足りたのであるが、皆が持ってるから欲しくてならぬ。定価がその時金八十銭と、覚えている。 七 親父はその晩、一合の酒も飲まないで、燈火の赤黒い、火屋の亀裂・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・(お雪や、これは嫉妬で狂死をした怨念と申しましてね、お神さんは突然袖を捲って、その怨念の胸の処へ手を当てて、ずうと突込んだ、思いますと、がばと口が開いて、拳が中へ。」 と言懸けました、声に力は籠りましたけれども、体は一層力無げに、幾・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・のために、僕の生活費の一部を供する英語教師の職をやめられかかっていたのだ。 父からは厳格ないましめを書いてよこした。すぐさま帰って来いと言うので、僕の最後の手紙はそれと行き違いになったと見え、今度は妻が、父と相談の上、本人で出て来た。・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・そういう道学的小説観は今日ではもはや問題にならないが、為永春水輩でさえが貞操や家庭の団欒の教師を保護色とした時代に、馬琴ともあるものがただの浮浪生活を描いたのでは少なくも愛読者たる士君子に対して申訳が立たないから、勲功記を加えて以て完璧たら・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・それゆえにこの学校に三、四十人の教授がいるけれども、その三、四十人の教師は非常に貴い、なぜなればこれらの人は学問を自分で知っているばかりでなく、それを教えることのできる人であります」と。これはわれわれが深く考うべきことで、われわれが学校さえ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ ちょうど隣の家の二階には、中学校へ、教えに出る博物の教師が借りていました。博物の教師は、よく円形な眼鏡をかけて、顔を出してこちらをのぞくのであります。 博物の教師は、あごにひげをはやしている、きわめて気軽な人でありましたが、いつも・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・なおそれが教師に知れて一週間の停学処分になった。 同級生に憎まれながらやがて四年生の冬、京都高等学校の入学試験を受けて、苦もなく合格した。憎まれていただけの自尊心の満足はあった。けれども、高等学校へはいって将来どうしようという目的も・・・ 織田作之助 「雨」
出典:青空文庫