・・・それから後は学校教師になって、Laboratorium に出入するばかりで、病人というものを扱った事が無い。それだから花房の記憶には、いつまでも千住の家で、父の代診をした時の事が残っている。それが医学をした花房の医者らしい生活をした短い期間・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・また巻末に添えられた六山寅の七古の狂詩に、「四海安政乙卯年」「袷衣四月毎日楽」「往来五日道中穏」等の句がある。乙卯は冬大地震のあった年である。 巻中に名を烈している一行は洒落翁、国朝、仙鶴、宗理、仙廬、経栄、小三次、国友、鳶常、仙窩、料・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・二年のとき数学上の意見の違いで教師と争い退校させられてから、徴用でラバァウルの方へやられた。そして、ふたたび帰って帝大に入学したが、その入学には彼の才能を惜しんだある有力者の力が働いていたようだった。この間、栖方の家庭上にはこの若者を悩まし・・・ 横光利一 「微笑」
・・・私は高等学校で教えている間ただの一時間も学生から敬愛を受けてしかるべき教師の態度をもっていたという自覚はありませんでした。……けれども冷淡な人間では決してなかったのです。冷淡な人間ならああ癇癪は起こしません。「私は今道に入ろうと心がけて・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫