・・・日本の治安維持法は、マルクシズムを放棄させ、運動から離脱することを要求したばかりでなく、更にすすんでその人がファッシズムに従うように強制した。マルクシストであったものこそファシストになるべきとされた。ここに、おどろくべく深い人間精神虐殺の犯・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・そのうちで、戦闘員だったものは千五百万人、最低その三倍の非戦闘員が、空襲とナチスやファシストの強制収容所、地下の抗戦運動で殺害されている。日本の軍部は、太平洋戦争で百八十五万人を死なせた。全国には百八十万人の未亡人が飢餓線に生きている。千円・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・軍部がその部落に二百円の強制献金を割り当てた。自作農らはついに共同墓地の松の木を伐ってそれを出すことに決議したが、昭和二年の鉱山閉鎖以来共同植付苅入れをしている「やま連」と呼ばれる農村の集団的な労働者がそれをきっかけに、未組織のK部落におけ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ おっぱらわれたなんて、私は『強請』に行ったんやあらへんよ、 たのんで出して御呉れ云うて来たんや。「いくら貴方ばかりそうやって力んだっておっぱらわれたに違いないんですよ、 私なら、眠ってたってそんな鈍痴な真似はするもんか。・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ これも、強制読書生活の間でのことであるが、私は、第一書房から出ている『藤村文学読本』というのを送られて読んだ。なにか、芭蕉の句を引いて、芭蕉の芸術境に対する自己の傾倒をのべた一文があった。引用されている句の中には「あか/\と日は難面も・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・中には随分曖昧な、家賃一ヵ年分を報酬として請求するとか、三月分を強請されて、家はどうにか見付かったが、その片をつけるに困ったとかいう噂が彼方此方にあった。私共も、自分で探していたのでは到底、何時になったら見付かるか、見当もつかないような有様・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・という昔ながらの封建のしきたりは、どういう偶然で、どんな女を母という強制として一人の娘の運命にさし向けないとも限らないのである。隣家の小母さんであるならば、鬼女もその娘に手をのばしはしなかったろう。母子関係の常套には新しい窓がひらかれる必要・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・其那ことをし、故意に生活に強制した一点を作るより、互に理解しようと努力し、友情で団結して行く気に、どうしてなれないのかと、自分は、自分の心持より、寧ろ、母上とAとの心持を恐れ悲しんで歎いたのであった。 あの時、自分は、若しそうしなければ・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・生きてゆく上に経済事情がどんなに決定的な条件であるかという事実も、こうして女子の失業が強制されて来れば、考えずにはいられない。一人一人の若い女性が身にあまる現代の疑問と慾求とに満ちて生きている。そこへ、選挙権が与えられた。ひしと身に迫り、身・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・精根つくして自分で米をつくっている農民が、強制供出に応じなければ、刑にふれて牢獄に入れられることになった。供出したがらないには、農業会、統制会、その他の全配給機構への農民の不信任があるのだし、第一には、これまで俺たちは騙されていた、という支・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
出典:青空文庫