・・・しかし、まだ忙しいモスクワ市民の需要と供給の比率は均衡からはるかに遠い。 その一方にこういう事情がある。燕麦の収穫が一九二九年は多くなかった。日本女は、今日び馬を食わせるのに云々という御者の言葉は、だからそれ自身としては十分信じ得る。そ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・大戦において経験された破壊を心から嘆き、戦争が非人道的な所業であることを心から恥じているヨーロッパの多くの進歩的な人々は、真面目に第二次大戦を防ごうとしていたし、あらゆる形、あらゆる会議、あらゆる力の均衡を発見する方法をつくして、危機に迫っ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、我というものに対して取るべき態度、延いては外界と自己との均衡がその時の最善に於てきっぱりと、わかったのです。 この位置のきまったという感は、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・お許しがないのに殉死の出来るのは、金口で説かれると同じように、大乗の教えを説くようなものであろう。 そんならどうしてお許しを得るかというと、このたび殉死した人々の中の内藤長十郎元続が願った手段などがよい例である。長十郎は平生忠利の机廻り・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ ネーは彼の後から、いつもと違ったナポレオンの狂った青い肩の均衡を見詰めていた。「ネー、今夜はモロッコの燕の巣をお前にやろう。ダントンがそれを食いたさに、椅子から転がり落ちたと云う代物だ」二 その日のナポレオンの奇怪・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫