・・・だが、それらの用語は天から降る金の箭のように扱われ、古代・中世・近世日本の文学におけるそれらの基準の概括の背景と内容は説き明されない。かかる日本文学古典上の評価の規準の推移に関するまとまったものとしては寡聞にして僅に久松潜一氏の『日本文学評・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 彼女等の持つ力は、人間総ての女性に与えられるべきものであり、彼女等の苦しむ何等かの不安、不均斉は、又人間すべての女性が同じ涙で泣くものであると云う事を、私はいつも考えの裡に入れて置きとうございます。 ――○――・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 婦人の独自な条件に立って体育、知育、徳育の均斉した発達の必要と、家庭生活における夫婦の「自ら屈す可からず、また他を屈伏せしむべからざる」人性の天然に従った両性関係の確立、再婚の自由、娘の結婚にあたって財産贈与などによる婦人の経済的自立・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・云ってみれば、一定の文化水準にある者には、外国人に日本画の美しさがわかるように、日本人にもフィジアスの彫刻の均斉の美はわかるのだと思う。文化の相互的な理解というものは、そのような古典鑑賞にとどまらず、古典に輝いた精神が、今日の文化面でどのよ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・きちんと、均斉保った花壇は私の嫌いなものだ。そう云う花壇に植え込まれる大部分の花、――雑種で、ジョウンジアとかスヌクシアとでも云いそうに仰々しい名前の――は私の眼を傷める。」〔一九二四年四月〕・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・ 幹と枝々との麗わしい均斉、軟らかな輪郭と、その密度によってところどころの変化をもつ静かな緑色の群葉に飾られた樹木は、光線の工合によって、細密な樹皮の凹凸を、さながら活動する群集のように見せながら、影と陰との錯綜、直線と曲線との微妙な縺・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・十二三の自分は、理性と感情との不均斉から絶えず苦しんでいた。恐ろしく孤独だった。世界が地獄のようであった。そして、今年十九に成った愛弟は、まだ純白な小羊であったのである。 その先生の夢を思い掛けず此間の晩に見た。先生は昔のように細面な、・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ 大層すらりと均整の整った体躯、睫の長い、力ある大きな二つの眼、ゆっくりとつくろわず結ねられている髪や衣服のつけ方などが、先ず外形的に、一種の快さを与えた。 最初の一瞥で、何とも云えず感じの深い而も充分威に満ちた先生の為人を感じた私・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・汽車は高いところを走っているから、そういうゴミゴミした大都会の入口の町並一帯の直ぐ向うの広いコンクリの改正通りには均斉を保って街燈が立連り、トラックなどが走っているのまで、車窓からつきとおしに見渡せるのである。 紺足袋は娘に、もう直ぐだ・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・で福沢諭吉が最も力をこめている点は、婦人の独自な条件に立っての体育、知育、徳育の均斉と、結婚生活における夫婦の「自ら屈す可からず、又他をして屈伏せしむべから」ざる人生の天然に従った両性関係の確立、再婚の自由、娘の結婚にあたって財産贈与などに・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫