・・・ばあさんは、金目になりそうな物はやるのを惜しがった。「こんな物を東京へ持って行けるんじゃなし、イッケシへ預けとく云うたって預る方に邪魔にならア!」「ほいたって置いといたら、また何ぞ役に立たあの。」「……うらあもう東京イ行たらじゝ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・これが例になって、その後はなんでも少し金目のかかるような欲しい物は、病気の時にねだる事にした。病気を種に親をゆするような事を覚えたのはあの時だったと思うと、親の顔が今更になつかしい。二度目に罹った時は中学校を出て高等学校に移った明けの春であ・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・住宅を建てた時でも色々な耐震的の工夫をして金目をかけたが、見かけの華美を求める心はなかったようである。 末広君の大学における講義にも特徴があったそうである。分量を少なく、出来るだけ簡易平明にして、しかも主要な急所を洩れなく、また実に適切・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫