・・・父や母に向って、私の小学校時代の事を、それはいやらしいくらいに、くどくどと語り、私が折角いい案配に忘れていたあの綴方の事まで持ち出して、全く惜しい才能でした、あの頃は僕も、児童の綴方に就いては、あまり関心を持っていなかったし、綴方に依って童・・・ 太宰治 「千代女」
・・・いまごろはもうあれも、立派なお医者になって、わたくしどもも、いまのような、こんな苦労をしなくても、……(くどくどと、涙まじりの愚痴しかし、そんな事をおっしゃったって、……。お母さん。僕の、考え直さなければいけないところというのも、つまり・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ば正論を以て一矢報いてやったのですね、そうすると、そのお隣りの細君が泣き出しましてね、私たちは何もいままで東京で遊んでいたわけじゃない、ひどい苦労をして来たんだ、とか何とか、まあ愚痴ですね、涙まじりにくどくど言って、うちの細君の創意工夫のア・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ 生まれてはじめて見た人形芝居一夕のアドヴェンチュアのあとでのこれらの感想のくどくどしい言葉は、結局十歳の亀さんや、試写会における児童の端的で明晰なリマークに及ばざることはなはだ遠いようである。文楽や歌舞伎に精通した一部の読者の叱責ある・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ 以上私は俳句の形式の必然性についてかなりくどくどしく述べて来たようであるが、そうしたわけは私の考えでは俳句の精神といったようなものは俳句のこの形式を離れては存立し難いものと考えるからである。その精神とはどんなものか、それについては章を・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・して、過度な緊張からくる一種の疲労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の文化に対して連帯責任を持っているし、他面から考えれば、そんなことを、都会人らしい感傷と女々しさでくどくどいっていられない、大切の時機に面・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・ むきだしな花道の端れでは、出を待っている山賊の乾児が酔った爺にくどくど纏いつかれている。眼隈を黒々ととり、鳥肌立って身震いしながら「いやだよ、うるさい」とすねていた女は、チョン、木が入ると急に、「御注進! 御注進!」と男の声を・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・この貝原益軒が養生訓をかいて、男の長寿のための秘訣をくどくど説明しているのを見くらべると、私たちは心からおどろかずにはいられない。眠り不足で栄養不良で体のつめたい女に、子を生まなければ去る、というむごたらしさはどうだろう。子のないのを女のせ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・その見方の誤りやそういう人間の見方そのものにあらわれている筆者の感情、偏執その他についてここでくどくどとふれる必要はないと思う。私はこの機会に月評の中で述べたいと思って枚数の足りなかったために書き洩した一つ二つのことについて書きたい。 ・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・ 中学時代からの友達の事や先輩の事をくどくど思いきった声で話して今東京で大きな学校の監督をして居る人の事を話したあとで、「何! 私だって成ろうと思えばその位にはなれますのさ。 しかしまあ自分の主義によってこうして居るんですが――・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
出典:青空文庫