-
・・・悩乱、苦悶。香は失せ色は褪せてほとんど狂気になるばかりであった。彼女は己が踏む道の上にあって、十字架を負った人のように烈しくあえいだ。今にも倒れそうな危うい歩きようである。 風聞が伝わった。「彼女病めり。」 彼女はこの時より一層高い・・・
和辻哲郎
「エレオノラ・デュウゼ」
-
・・・個性の最上位を信じながら社会的勢力との妥協を全然捨離し得ない苦悶。愛の心と個性を重んずる心との争い。個性と愛とを大きくするための主我欲との苦闘。主我欲を征服し得ないために日々に起こる醜い煩い。主我欲の根強い力と、それに身を委せようとする衝動・・・
和辻哲郎
「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」