・・・ ここにわたしたちの生活に即した考えのいとぐちがあり政府が奨励する町の踊りについての民衆の声があったわけです。みんなが考えたことをみんなが表現する自信さえもったら、社会の進歩のための輿論は活発になります。私たち自身の豊富さもまします。・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・彼の周囲には、ぐちをいいいいプカプカたかいタバコをすっている男たちがおり、彼のひらく雑誌は、抽象的論議だらけの旧型綜合雑誌なのでしょう。そして、最もおどろくべきことは、政治の面で、内閣のからやくそくとすっぽかしに対して、わたしたちの抗議がど・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・ お金が台所へ立ってしまうと、お君は父親をぴったり枕のそばに引きつけて、ボソボソと低い声であらいざらいの事を話して愚痴をこぼしたり、恨みを並べたりした。 毎月一週間ずつ入院して、病のある骨盤に注射をしたり、膿を取ったりしなければなら・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・一九四五年八月十五日から後の、いく年間か文学上に発言のなかった今日出海によって、実名小説流行のいとぐちが開かれたことも、偶然ではない。一九五〇年度の文学現象のこのような特性は、それ自身として決して孤立した社会現象ではないのである。 その・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・エロ・グロ出版の排除という、誰も非難しようのないいとぐちによって、時事新報が誤って報道したように、万一その委員会が、刑法改正請願というような逸脱行為に導かれれば、それはとりもなおさず外見は民間の声というファシズムの手のひらで、民主的発言の口・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・ちょうど、それは嫌な結婚の対手についても、婦人の独立がまもられていないから、友達に逢えば年中ぐちをこぼしながら、ちゃんと人格をみとめ合った離婚も出来ないのと同じです。本当よ、それは。私どもの感情というものは型にはめられて、非常に家族の形をや・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・て走ったが、四つ年上のわたしは、じき自分の走る面白さに夢中になって弟をのこし、道灌山と崖ぶちの柵の道とを区切っているからたちのしげみに沿って、体を内側へすこし傾かせながら大迂廻をし、ずっと道灌山の入りぐち近く逃げて来た。肩よりも高くしげって・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・婦人閲覧者のかり出しぐちは、別に塗板がかけられて、一人専任がいた。これは元のとおりである。 きょうもまた、古い昭和初期の新聞を出して貰うのを待ちながら、私は特別の関心で、高い卓のあっち側で事務をとっている黒い上っぱりの三人の男の顔だちを・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・その様子が又なく可愛いので強いことも云えず、ぐちっぽく一つことを二度も三度もくり返してはたから見て居る自分達の心もとなさや、後のためにもなどと久しく話していたが結局は光君によい返事をするようにとすすめるのでだまってきいて居た女君は眉の間に決・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・上りぐちで、「おいてきぼりになっちゃった!」 そう云いながらひろ子が、重吉の帰る時間をきいた。「何時ごろ? いつも頃?」 これも貰いもののハンティングのつばを、一寸ひき下げるようにして、重吉は無言のまま大股に竹垣の角をまわっ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫