・・・生意気にもかかわらず、親雀がスーッと来て叱るような顔をすると、喧嘩の嘴も、生意気な羽も、忽ちぐにゃぐにゃになって、チイチイ、赤坊声で甘ったれて、餌を頂戴と、口を張開いて胸毛をふわふわとして待構える。チチッ、チチッ、一人でお食べなと言っても肯・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・頬張るあとから、取っては食い、掴んでは食うほどに、あなた、だんだん腹這いにぐにゃぐにゃと首を伸ばして、ずるずると鰯の山を吸込むと、五斛、十斛、瞬く間に、満ちみちた鰯が消えて、浜の小雨は貝殻をたたいて、暗い月が砂に映ったのです。と仰向けに起き・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
一 寒くなると、山の手大通りの露店に古着屋の数が殖える。半纏、股引、腹掛、溝から引揚げたようなのを、ぐにゃぐにゃと捩ッつ、巻いつ、洋燈もやっと三分心が黒燻りの影に、よぼよぼした媼さんが、頭からやがて膝の・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・(足手を硬直し、突伸べ、ぐにゃぐにゃと真俯向けに草に俯夫人 ほんとうなの、爺さん。人形使 やあ、嘘にこんな真似が出来るもので。それ、遣附けて下せえまし。夫人 ほんとうに打つの?人形使 血の出るまで打って下せえ。息の止るまでも・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ほとんど骨がないみたいにぐにゃぐにゃしている大尉を、うしろから抱き上げるようにして歩かせ、階下へおろして靴をはかせ、それから大尉の手を取ってすぐ近くの神社の境内まで逃げ、大尉はそこでもう大の字に仰向に寝ころがってしまって、そうして、空の爆音・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・自分ながら可笑しかったが、急にぐにゃぐにゃになる事も出来なかった。食事の時も膝を崩さなかった。ビイルを一本飲んだ。少しも酔わなかった。「この島の名産は、何かね。」「はい、海産物なら、たいていのものが、たくさんとれます。」「そうか・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・さすがの蛇もぐにゃぐにゃした上着ではちょっとどうしていいか見当がつかないであろう。この映画ではまた金網で豹や大蛇をつかまえる場面もある。網というものは上着以上にどうにもしようのない動物の強敵であるらしい。全く運命の網である。天網という言葉は・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・てめえみたいな、ぐにゃぐにゃした男らしくもねえやつは、つらも見たくねえ。早く持てるだけ持ってどっかへうせろ。」いたちはプリプリして、金米糖を投げ出しました。ツェねずみはそれを持てるだけたくさんひろって、おじぎをしました。いたちはいよいよおこ・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・そのために出版業者は情報局の忌諱に触れるものを出したら睨まれて潰されるかも知れないからぐにゃぐにゃになって、できるだけ情報局のお気に入るようなものになって存在しようとする。そういうものに作品を載せねばならないとすれば、腹が立ちながらも、割り・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・ 生気のない眼をした、ぐにゃぐにゃした感じの男は、ゴーリキイの心に嫌悪を生んだ。ヤコヴ・シュモフは、ゴーリキイの心に「穏やかならぬ複雑な感情を残して、熊のように体を揺りながら立去ってしまった。――」 秋、ヴォルガの河の水瀬が落ち・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫