・・・ 伯父さんと謂われたる老人は、ぐらつく足を蹈み占めながら、「なに、だいじょうぶだ。あれんばかしの酒にたべ酔ってたまるものかい。ときにもう何時だろう」 夜は更けたり。天色沈々として風騒がず。見渡すお堀端の往来は、三宅坂にて一度尽き・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・「じゃア、うまった跡にぐらつく安借家が出来た、その二軒目だろう?」「しどいわ、あなたは」と、ぶつ真似をして、「はい、これでもうちへ帰ったら、お嬢さんで通せますよ」「お嬢さん芸者万歳」と、僕は猪口をあげる真似をした。 三味を弾・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 私は自分が小説を書く事に於いては、昔から今まで、からっきし、まったく、てんで自信が無くて生きて来たが、しかし、ひとの作品の鑑賞に於いては、それだけに於いては、ぐらつく事なく、はっきり自信を持ちつづけて来たつもりなのである。 私はそ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
出典:青空文庫