・・・て歩いていますと、その牧場の主人がかわいそうに思って家へ入れて、赤ん坊のお守をさせたりしていましたが、だんだんネリはなんでも働けるようになったので、とうとう三四年前にその小さな牧場のいちばん上の息子と結婚したというのでした。そしてことしは肥・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・陽子は、暫らくでもいい、自分もこのような自然の裡で暮したいと思うようになった。オゾーンに充ちた、松樹脂の匂う冬の日向は、東京での生活を暗く思い浮ばせた。陽子は結婚生活がうまく行かず、別れ話が出ている状態であった。「あああ、私も当分ここで・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・F君は女学生と秘密に好い中になっていたが、とうとう人に隠されぬ状況になったので、正式に結婚しようとした。それを四国の親元で承引しない。そこで親達を説き勧めにF君が安国寺さんを遣ったと云うのである。 私はそれを聞いて、「安国寺さんを縁談の・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ 世界は鵜飼の遊楽か、鮎を捕る生業かということよりも、その楽しさと後の寂しさとの沈みゆくところ、自らそれぞれ自分の胸に帰って来るという、得も云われぬ動と静との結婚の祭りを、私はただ合掌するばかりに眺めただけだ。一度、人は心から自分の手の・・・ 横光利一 「鵜飼」
出典:青空文庫