・・・彼らは第四階級以外の階級者が発明した論理と、思想と、検察法とをもって、文芸的作品に臨み、労働文芸としからざるものとを選り分ける。私はそうした態度を採ることは断じてできない。 もし階級争闘というものが現代生活の核心をなすものであって、それ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ブルジョア階級と擬称せられる集団の中にも、よく検察してみるとブルジョア風のプロレタリアもいれば、プロレタリア風のブルジョアもいるというように、第四階級も決して全部同質なものでないと僕は信ずるのだ。第四階級をいうならば、ブルジョアジーとの私生・・・ 有島武郎 「片信」
・・・いかんとなれば背後はすでにいったんわが眼に検察して、異状なしと認めてこれを放免したるものなればなり。 兇徒あり、白刃を揮いて背後より渠を刺さんか、巡査はその呼吸の根の留まらんまでは、背後に人あるということに、思いいたることはなかるべし。・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・返す返す済まないが、右の事情を御賢察のうえ御寛恕下さい。しかし貴兄から、こう頼まれたが、工面出来ないかと友達連に相談をかけても良いものならばまた可能性の生れて来る余地あるやも知れぬが、これは貴兄に対する礼儀でないと思うので……右とり急ぎ。辻・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・屋台の裏にも山桜の大木三本有之、微風吹き来る度毎に、おびただしく花びらこぼれ飛び散り、落花繽紛として屋台の内部にまで吹き込み、意気さかんの弓術修行者は酔わじと欲するもかなわぬ風情、御賢察のほど願上候。然るに、ここに突如として、いまわしき邪魔・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・戦地へ出かける途中、上野駅に下車して、そこで多少の休憩の時間があるからそれを利用し、僕と一ぱい飲もうという算段にちがいないと僕は賢察していたのである。もうその頃、日本では、酒がそろそろ無くなりかけていて、酒場の前に行列を作って午後五時の開店・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・この事件が起訴されるまでの全過程を通じて、検察団はどのように行為したか。そして、これからどのように行動して法律をつかうかという点が十分監視されなければならないということである。どういう結果であれ、人々は真実の事実を知りたいと思っているのだ。・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・が、文学作品としてよむことの出来ない年齢の読者や教養の低い人々にとって、のぞましくない影響をもつからと言って、部分的に削除したりしている、という実例は、こんにちの日本の検察力で、起訴してよいという口実にはなりません。四、真に文化上の処置・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・の告発状の中には、検察当局がその作品をちゃんとよんでいない節があることを公表するだろう。ヒダにはさまれてもがくどの虫も、権力によって発せられた告発状そのものが、訴訟法に反してつくられているという事実をもって、法廷にたたかう決意を示したためし・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・この列車妨害記事の出はじめたとき、全国の国鉄労組のまじめな人たちは、すぐ自身たちで検察隊をつくるべきだと思った。こういう挑発は労働者自身によってきびしく監視されるべきことがらである。 列車妨害という行為は本質的に反労働者的であり、反人民・・・ 宮本百合子 「犯人」
出典:青空文庫