・・・然し今其源因を一つに片付けるのは愚の至として、又事実の許す如く、しばらく両方の因数が相合して此需要を引き起したとして、余はとくに余の見地から見て、後者の方に重きを置きたいのである。 自白すると余は万年筆に余り深い縁故もなければ、又人に講・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・この見地からその特色を数えるならば次の諸点に帰する。一 これは正しいものの種子を有し、その美しい発芽を待つものである。しかもけっして既成の疲れた宗教や、道徳の残滓を、色あせた仮面によって純真な心意の所有者たちに欺き与えんとするもので・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・なぜならビジテリアン諸君の主張は比較解剖学の見地からして正に根底から顛覆するからである。見給え諸君の歯は何枚あります。三十二枚、そうです。でその中四枚が門歯四枚が犬歯それから残りが臼歯と智歯です。でそんなら門歯は何のため、門歯は食物を噛み取・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・あわないですむようにとおもっている日本のすべての男女は、ドイツやフランスやその他のあらゆる国々の人民とおなじに、世界を動かす強国の権力者たちが、それぞれのそろばん勘定はしばらくおいて、人類のためという見地から聰明に慎重に行動して、世界平和の・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・母性保護の見地から婦人労働者の入坑を禁じた鉱山労働へ、女は石炭に呼ばれ、再び逆戻りしかけている。幼年労働の無良心な利用も問題とされているのである。 婦人が性の本然として生殖の任務をもっているということと、女は家庭にあるべきものという旧来・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・そういう姿にある時代錯誤の感じは、単なるハイカラ的見地からでなく現代の世界が使用している武器の機械的な強力さや精緻さは子供だって知っているのだから、女の子がなまじそんな木剣を背負って行進したりするところには、ちかごろ流行の詩吟や黒紋付姿同様・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・とジイドの文句が引かれていても、主人公の男がいい家庭と云い、その建設のために妻を教育し扶けようとするという、その実質について全然人間生活という見地からの省察が向けられていない時、読者はどこに作者の魂の価値たるより激しき燃焼を見出すことが可能・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・ 今日の結婚論は、先ず優生学の見地から、子供をもつ可能の点からいわれている。より強壮な肉体の配偶を互に選び合えということに重点をおいて語られている。 これらのことは、結婚の現実に幸福をましてゆく一つの大切な条件であるし、日本の女性た・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 日本プロレタリア作家同盟が、婦人の文学における活動へ特別こういう注意を向けたことは、階級的なあらゆる見地から正しい。 なぜなら、プロレタリアートの世界観だけが、社会の勤労を基礎として男と女とを同志として考え得る。レーニンも云ってい・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・後書を発展的な見地に立って私が自身の名でかくつもりです。私はもうその位の経験は積ねていると信じて居りますから。歴史の或時の業績の中から積極的なものがちゃんと引出されるのは当然であり、悦びです。 十八日の午後二時。 あれからかえって来・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫