ある春の夕、Padre Organtino はたった一人、長いアビト(法衣の裾を引きながら、南蛮寺の庭を歩いていた。 庭には松や檜の間に、薔薇だの、橄欖だの、月桂だの、西洋の植物が植えてあった。殊に咲き始めた薔薇の花は・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・「おや、あの机の脚の下にヴィクトリア月経帯の缶もころがっている。」「あれは細君の……さあ、女中のかも知れないよ。」 Sさんは、ちょっと苦笑して言った。「じゃこれだけは確実だね。――この別荘の主人は肺病になって、それから園芸を・・・ 芥川竜之介 「悠々荘」
・・・英国の王家が月桂詩人の称号をスウィンバーンに与えないで、オースチンに年々二、三百磅の恩給を贈るのは、単に王家がこの詩人に対する好悪の表現と見ればそれまでである。けれども国家の与うべき報酬は、一銭一厘たりとも好悪によって支配さるべきではない。・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・例えばそのような細部に於ても女囚が月経中まし紙と称して多少余計な浅草紙をいただかせて頂く、ということ。その非衛生な事実について筆者の意見が些も滲み出していない。皮肉さで、いただかせていただくという、恐らく特殊な用語例の一つが使われているだけ・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ 成年の女に月経は自然の現象ではあるけれども、現代の労働の或る種のものは、その自然現象に阻害を与えるような悪事情で女を働らかせている。その面に私たちの関心は向けられる。自然のことなのであるから、それが自然に処理され、自然に経験されてゆく・・・ 宮本百合子 「職業婦人に生理休暇を!」
・・・ 「だけど月経がさ」 「フッ!」男「いや 女は……見たような気はしないし、ちょいちょいちょいちょい――行きたくって――」若女「車でとばしちまっただけで何が何だか分りゃしなかった、足でちっとも歩かないんだもの」中女「宿・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・そして女の一生に誰しも忘れない時機――月経の始まるときになる。 どうして月経が起るかというと、見なさい。女の腹の中に右と左と二つの「卵巣」がある、そこで一月に一つずつの肉眼では見えない卵細胞が育つ。それが体の外へ排出されるとき月経が起り・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・ 年増の女は駭然として「だけど月経がさ」と座りなおしたような声を出した。「フッ!」「いや女は……」 男は真面目に云った。「見たような気はしないし、ちょいちょい、ちょいちょい行きたくって」「懲りてるのさ私、この・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫