・・・この故に処女崇拝者は恋愛上の衒学者と云わなければならぬ。あらゆる処女崇拝者の何か厳然と構えているのも或は偶然ではないかも知れない。 又 勿論処女らしさ崇拝は処女崇拝以外のものである。この二つを同義語とするものは恐らく女人・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・馬琴の衒学癖は病膏肓に入ったもので、無知なる田夫野人の口からさえ故事来歴を講釈せしむる事が珍らしくないが、自ら群書を渉猟する事が出来なくなってからも相変らず和漢の故事を列べ立てるのは得意の羅大経や『瑯ろうやたいすいへん』が口を衝いて出づるの・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・という彼の祈願は名利や、衒学のためではなくして、全く自ら正しくし、世を正しくするための必要から発したものであった。 善とは何か、禍いの源は何か、真理の標識は何か。すべての偉人の問いがそれに帰宗するように、日蓮もまたそれを問い、その解決の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・学校を卒業できなかったので、故郷からの仕送りも、相当減額されていた。一層倹約をしなければならぬ。杉並区・天沼三丁目。知人の家の一部屋を借りて住んだ。その人は、新聞社に勤めて居られて、立派な市民であった。それから二年間、共に住み、実に心配をお・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・昔は自分達の行く劇場にさえ入れなかったような労働者の前へ、今は顛倒した地位で自分達が立たなければならなくなった彼等が、素朴な管理者が閉口するように、報告を出来るだけ衒学的な文句で書いたり、必要もないのに、馬鹿叮寧な術語をしかもドイツ語で並べ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 若し声がよかったら歌を、そうでなかったら何か楽器を、絃楽の方がいいだろうと思いますが、どんなもんでしょう。 どうしたって、頭の明快な趣味の高い児にならせなければねえ。 じいっと眼をつぶると、レースのたっぷりついた短かい白い着物・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・少くとも自然を描こうとする感情の中から余計な支那的誇張、風流の定型、哲学的衒学を洗いすてようとしたことからだけでも、写生文の運動は相当評価されるべきであると思われるのである。 現代の文学において、自然というものは、きわめて特徴的な歴史的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・わが幼稚なる衒学時代の開始、日本の文壇は人道主義が盛だった。一九一六年女学校五年、祖母の棲んでいる福島県下の田舎へ小さい時から毎年行っていた。その印象をあつめて「農民」という小説を書いた。女学校卒業、目白の女子大学英文予・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・概してピアノや絃楽、交響楽を好んでききます。〔一九二二年六月〕 宮本百合子 「初めて蓄音器を聞いた時とすきなレコオド」
・・・非常に古代美術愛好家風な、衒学的な、却ってそれが一種の野卑を感じさせる婦人の美の説明が我々を間誤つかせていると思うと、それはいつしか十九世紀のブルジョア勃興期にフランスで、そしてイギリスでも所謂下層階級の出身の美しい娘がどんな道行で没落に瀕・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫