・・・ この際にあたりて、ひとり我が義塾同社の士、固く旧物を守りて志業を変ぜず、その好むところの書を読み、その尊ぶところの道を修め、日夜ここに講究し、起居常時に異なることなし。もって悠然、世と相おりて、遠近内外の新聞の如きもこれを聞くを好まず・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・これ最も危険なる最も愉快なる場合にしてこの時の打者の一撃は実に勝負にも関すべく打者もし好球を撃たば二人の廻了を生ずることあり、もし悪球を撃たば三人ことごとく立尽に終ることさえあるなり。とにかく走者多き時は人は右に走り左に走り球は前に飛び後に・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・今日、所謂高級ではない雑誌に時々のせられているそれらの手紙は、実に読者をうつものをもっている。これらの飾らず、たくまざる人々の記録と、職業家のルポルタージュとの対比は、文学に関心をもつ者の心に真摯な考慮を呼びさまさずにはいない。又、いつかは・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・いわば近代的な後宮の女性めいた関係なのであるから。私たちの周囲で、女同士の友情を信じてない言葉がいわれる場合について考える時それはあながち直接の対象として男を置いてのことではないと見られる。遙かにそれより複雑の度を増して来た上での現象で、あ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・これ等は、おもに流動する貨幣のみちびきかた、適当な配分を考究して、金によって支配される、生活に必須な物質方面から、人間生活を正当なものに落ち付けて行こうとするのではないでしょうか。けれども、私が、深く疑問に思うことは、それ等の諸問題が学理的・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・それゆえ、殆ど、地球上全部の人間が、私は、今、新たな、もっと恒久普遍な価値を、生活の標準として見出だそうとつとめているのだと思います。一方からいうと、生活が苦るしく、疲れ、倒れるもののある位、当然であり、大きい目で見、謙譲に考えて、やむを得・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・黒と白だけで全部を表現する版画家の人生に対する感情にさまざまな点から新しい興味を喚起されたし、文化の程度の低い民族あるいは社会層の者ほど原色配合を好み、高級となり洗練された人間ほど微妙な間色の配合、陰翳を味わう能力を増すといわれているありき・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 第一、ソヴェトのプロレタリア作家たちが、一時的に農村や工場へ出かけて行って観察し、材料を集めて来るというような状態は、ソヴェトの芸術運動発展の方向から見て恒久的な性質をもつものであろうか? 七月の党大会に、ラップ代表としてキルショ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・軍につながる高級官僚たちが素早く我をかばった保身の術も、同情をもってみられてはいない。 いま新京を遁走するという八月九日の夜、観象台の課長であった著者の良人が、責任感から、他の所員を引揚団の団長にして自分は一応残留したという事実に、読者・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・公的な根拠において、国民負担による高給をうけとり、戦争手当をうけとり自分たちの何一つ不自由のない購買組合によってその妻子までを、戦時下の人民一般の苦境にふれる必要ない生活を営ませて来た以上、彼の一生は、公的に導びかれ解決されるべきであった。・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
出典:青空文庫