・・・しかしながら文学と教育とは、工業をなすということ、金を溜めるということよりも、よほどやさしいことだと思います。なぜなれば独立でできることであるからです。ことに文学は独立的の事業である。今日のような学校にてはどこの学校にても、Mission ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 昨日まで、町にきていて、興行をしていたのです。それが、今日、ここを引き揚げて、また、どこかへいって、興行をしようとするのでした。彼らは、住んでいたテントをたたんで、いっさいの道具といっしょに車へ積み、そして、芸当に使っていた馬に引かせ・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・まったので、やけになり世にすねたあげく、いっそこの世を見限ろうとしたこともあるが、五年後の再会を思いだしたので、ふたたび発奮して九州へ渡り、高島、新屋敷などの鉱山を転々とした後、昨年六月から佐賀の山城礦業所にはいって働いているが、もしあの誓・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・――この乱闘現場の情景を目撃してゐた一人、大和農産工業津田氏は重傷に屈せず検挙に挺身した同署員の奮闘ぶりを次のやうに語つた。――場所は梅田新道の電車道から少し入つた裏通りでした。一人の私服警官が粉煙草販売者を引致してゆく途中、小路か・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・常盤座ももう焼けた小屋とは見えず、元の姿にかえって吉本の興行が掛っていた。 その常盤座の前まで、正月の千日前らしい雑閙に押されて来ると、またもや呼び停められた。 見れば、常盤座の向いのバラックから「千日堂」のお内儀さんがゲラゲラ笑い・・・ 織田作之助 「神経」
・・・必ず負けると判れば、もう博奕じゃなくて興行か何かだろう。だから検挙して検事局へ廻しても、検事局じゃ賭博罪で起訴出来ないかも知れない、警察が街頭博奕を放任してるのもそのためだと、嘘か本当か知らんが穿ったことを言っていたよ。まアそんなものだから・・・ 織田作之助 「世相」
・・・「どうしてというわけもないが、君なら三日と辛棒ができないだろうと思う。第一僕は銀行業からして僕の目的じゃないのだもの」 二人は話しながら歩いた、車夫のみ先へやり。「何が君の目的だ」「工業で身を立つる決心だ」といって正作は微笑・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・私はいかなる卓越した才能あり、功業をとげたる人物であっても、彼がもしこの態度において情熱を持っていないならば決して尊敬の念を持ち得ないものである。その人生における職分が政治、科学、実業、芸術のいずれの方面に向かおうとも、彼の伝記が書かれると・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・科学的発明も、化学工業も、鉄道敷設も、電信も道路の開通も、すべてが、資本主義の下にあっては、戦争準備の目標に向って集中されている。それは直接間接にプロレタリアの生活に重大な関係を持っている。反戦文学の恒常性はこゝに存在する。資本主義制度が存・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 三代目の横井何太郎が、M――鉱業株式会社へ鉱山を売りこみ、自身は、重役になって東京へ去っても、彼等は、ここから動くことができなかった。丁度鉱山と一緒にM――へ売り渡されたものゝ如く。 物価は、鰻のぼりにのぼった。新しい巨大な器械が・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
出典:青空文庫