・・・ かゝる無理な場合でも、子供は、母親に対し、不明な教師に対して、抗議する何等の力を持っていない。それ故に母親が自から改めなければ、強権の力を頼んでも試験勉強の如きを廃して、幾百万の児童を救ってもらいたいと思うのであります。 お母さん・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・しかし、これがために、今日、近距離を行くにさへたる、境遇について、不平を言い、抗議することを知らない。いつも受動的であり、どんなとこにでも甘んじなければならぬ。それを考うる時、四六時中警笛におびやかされ、塵埃を呼吸しつゝある彼等に対して、涙・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ やがて、講義が終わると、先生は、眼鏡ごしに、小田を見ていられたが、「時に小田くん、君はたしか三男であったな。」と、きかれた。「はい、そうです。」「べつに、農を助ける人でないようだな。それなら、東京へ出て働いてみないか。いや・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・ 学生時代に、その講義を聴いた小泉八雲氏は、稀代な名文家として知られていますが、たとえば、夏の夜の描写になると、殆んど、熱した空気が、肌に触れるようにまた、氏の好めるやさしい女性が、さゝやく時には、その息が、自分の顔にまで、かゝるように・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・ すべての芸術は、広義の意味のヒュマニティに立脚している。知的分子もあるに相違ないが、情緒の加わらぬ芸術はない。此の意味に於て芸術は、常に永久性を持っているものである。芸術の与うる感じは愉悦の感じでなければならぬ。男性的のものゝ中にも女・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・ライオンハミガキの広告灯が赤になり青になり黄に変って点滅するあの南の夜空は、私の胸を悩ましく揺ぶり、私はえらくなって文子と結婚しなければならぬと、中等商業の講義録をひもとくのだったが、私の想いはすぐ講義録を遠くはなれて、どこかで聞えている大・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・そこでの講義は高遠であり、私のような学識のない者は到底その講義を理解することが出来ぬだろうと真面目に信じていたのである。それ故私は卒業の日が近づいて来ると、にわかに不安になり、大学へはいるのはもう一年延ばした方がいいのではなかろうか、もう一・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ そんな風に扱われては、支店長たちも自然自滅のほかはないと、切羽つまった抗議の手紙を殆んど連日書き送ったが、さらに効目はない。やっと返事が来たかと思うと、請求したくば、売り上げをもっと挙げてからにしろという文面だ。 そして、いきなり・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それとも一種のすねた抗議の姿態だろうか。 娘は暫くだまって肩で息をしていたが、いきなり小沢の背中に顔をくっつけて、泣き出した。「何を泣いてるんだ……?」 小沢はわざと冷淡な声を出しながら、窓の外の雨の音を聴いていた。……・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・自分も生爪を剥いだり、銚子を床の間に叩きつけたりしては、下宿から厳しい抗議を受けた。でも昨今は彼女も諦めたか、昼間部屋の隅っこで一尺ほどの晒しの肌襦袢を縫ったり小ぎれをいじくったりしては、太息を吐いているのだ。 何しろ、不憫な女には違い・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
出典:青空文庫