・・・俺は今度会ったら医者に抗議を申し込んでやる」 日に当りながら私の憎悪はだんだんたかまってゆく。しかしなんという「生きんとする意志」であろう。日なたのなかの彼らは永久に彼らの怡しみを見棄てない。壜のなかのやつも永久に登っては落ち、登っては・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・候も無理ならぬ事にござ候 先日貞夫少々風邪の気ありし時、母上目を丸くし『小児が六歳までの間に死にます数は実におびただしいものでワッペウ氏の表には平均百人の中十五人三分と記してござります』と講義録の口調そっくりで申され候間、小生も・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・神崎工学士、君は昨夕酔払って春子様をつかまえてお得意の講義をしていたが忘れたか。」「ねエ朝田様! その時、神崎様が巻煙草の灰を掌にのせて、この灰が貴女には妙と見えませんかと聞くから、私は何でもないというと、だから貴女は駄目だ、凡そ宇宙の・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・によって行為すべきであるというシルレルの抗議が生じるのだ。 しかしひとたびかような主観的情緒主義を許すと、実践上の道徳的厳粛性というものは保てなくなる。文芸家の実行力の薄弱、社会的善の奉仕の懈怠等は皆ここから生じるのだ。この利己と利他、・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・貧しい大学生などよりは、少し年はふけていても、社会的地歩を占めた紳士のほうがいいなどといった考えは実に、愚劣なものであるというようなことを抗議するのだ。日本の娘たちはあまりに現実主義になるな、浪曼的な恋愛こそ青春の花であるというようなことを・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・かくて政権は確実に北条氏の掌中に帰し、天下一人のこれに抗議する者なく、四民もまたこれにならされて疑う者なき有様であった。後世の史家頼山陽のごときは、「北条氏の事我れ之を云ふに忍びず」と筆を投じて憤りを示したほどであったが、当時は順逆乱れ、国・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 兵士達は、偽札を撒きちらされても、強者には何一ツ抗議さえよくしない日本当局の無気力を憤った。メリケン兵は忌々しく憎かった。彼等は、ひまをぬすんで寝がえりを打った娘のところへのこ/\やって行って偽札を曝露した。「何故?」 肌自慢・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・闘文闘詩が一月に一度か二度ある、先生の講義が一週一二度ある、先ずそんなもので、其の他何たる規定は無かったのです。わたくしの知っている私塾は先ずそんなものでした。で、自宅練修としては銘々自分の好むところの文章や詩を書写したり抜萃したり暗誦した・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・し大学にある間だけの費用を支えるだけの貯金は、恐ろしい倹約と勤勉とで作り上げていたので、当人は初めて真の学生になり得たような気がして、実に清浄純粋な、いじらしい愉悦と矜持とを抱いて、余念もなしに碩学の講義を聴いたり、豊富な図書館に入ったり、・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・きのう学校で聞いて来たばかりの講義をそのまま口真似してはじめるのだから、たまったものでない。「数学の歴史も、振りかえって見れば、いろいろ時代と共に変遷して来たことは確かです。まず、最初の段階は、微積分学の発見時代に相当する。それからがギリシ・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫