・・・は伏見鳥羽の戦いに敗れて落ちめになってからの近藤勇と土方歳三とが、新撰組の残りを中心とする烏合の勢をひきいて甲陽鎮撫隊をつくり、甲州城にのり込もうと進むところを、勝沼で官軍に先手をうたれて包囲された物語である。風雲児的な近藤、土方が戦いを一・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・、科学、哲学、宗教に関する真理文庫をつくったり」、講習をしたりすること、健康増進をはかりたい等説明しているのである。そしたら「十年二十年の間に見ちがえるような東北地方が出現するであろう」と思うというのが友松の意見であるが、果してそれが現実の・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・然るに国民之友の主筆徳富猪一郎君が予の語る所を公衆に紹介しようと思い立たれて、丁度今猪股君が予に要求せられる通りに要求せられた。これが予が個人と語ることから、公衆と語ることに転じた始で、所謂鴎外漁史はここに生れた。それから東京の新聞雑誌が、・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・この頃身方についた甲州方の者に聞けば、甘利はあれをわが子のように可哀がっておったげな。それにむごい奴が寝首を掻きおった」 甚五郎はこのことばを聞いて、ふんと鼻から息をもらして軽くうなずいた。そしてつと座を起って退出したが、かねて同居して・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・彼の職務は或る作品がいかなる芸術的価値を持つかを定めることではなく、ただそれが公開される場合に公衆に対していかなる影響を及ぼすかを精確に判定し、その影響が社会の秩序を紊乱し善良な風俗を壊乱するようなものであった場合に、その公開を禁止すること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫