・・・る者なきにあらざれども、その談論時として男女関係の事に及び、日本の男子は多妻を許されてこれを咎むるものなく、ただに法律に問わざるのみならず習俗の禁ぜざる所なれば、社会の上流良家の主人と称する者にても、公然この醜行を犯して愧ずるを知らず、即ち・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・即ち我が精神を自信自重の高処に進めたるものにして、精神一度び定まるときは、その働きはただ人倫の区域のみに止まらず、発しては社会交際の運動となり、言語応対の風采となり、浩然の気外に溢れて、身外の万物恐るるに足るものなし。談笑洒落・進退自由にし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 一九二〇年代のドイツは、左翼が活躍し、ドイツ共産党も公然と存在していた時代であった。その時代に育ったエリカ・マンが民主主義の精神をもち、日に日につのるナチスの暴圧に反抗を感じたのは自然であった。エリカ・マンは、はじめ小論文や諷刺物語を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・日本の中には釈放された有力な戦争協力者たちが暗躍していて、この一年間に人民に対する抑圧とアジアの解放を妨げる仕事がある時はこっそりと、ある時は公然と法律をふりかざして行われてきています。 アジアの姉妹たちよ。わたしたち日本の婦人は、また・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・今日の生活としてだれしもやむを得ないことは、その程度のちがいだけであるところまで辷りこむと、本質をかえて社会悪となり、また犯罪的性格をもつようになってしまう。公然のうそが、わたしたちの生活にある。うそであることを政府も人民も知っている。だけ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・涙は眼に溢れるけれども、頭は昂然と歴史の前途に向ってもたげ、愛と勇気と堅忍とをもって民主の日本を生きようとするすべての精神にとって、この一巻の書簡集はおくられるのであると思う。〔一九四六年九月〕・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・オノレ・ド・バルザックはパリの屋根裏から昂然と太い頸をもたげ、南方フランス人の快活さ、自信、加うるにブルジョア勃興期の特質をまぎれもなく自身の血の中に具えて、「名声」と「富」とを勝利の花飾りとして情熱的に夢見つつ、文学の仕事にとり組みはじめ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして、戦いの中に「昂然と身を捨て切った精神に洗われ」「自身の内に英雄を感じ」終結は「この戦場をのりこえて」「善良が不徳でないところまで、私を強くするのだ」という気持を、この作者は語ろうとしている。本多氏の短評では、「私」を出して書いている・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その中にも百姓の強壮な肺の臓から発する哄然たる笑声がおりおり高く起こるかと思うとおりおりまた、とある家の垣根に固く繋いである牝牛の長く呼ばわる声が別段に高く聞こえる。廐の臭いや牛乳の臭いや、枯れ草の臭い、及び汗の臭いが相和して、百姓に特有な・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・それでもおれは命が惜しくて生きているのではない、おれをどれほど悪く思う人でも、命を惜しむ男だとはまさかに言うことが出来まい、たった今でも死んでよいのなら死んでみせると思うので、昂然と項をそらして詰所へ出て、昂然と項をそらして詰所から引いてい・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫