・・・案内して来た生徒たちは、むかし此の学校に芥川龍之介も講演しに来て、その時、講堂の彫刻を褒めて行きました、と私に教えました。私も、何か褒めなければいけないかと思って、あたりを見廻したのですが、褒めたいものもありませんでした。 やがて出て来・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・素人目にはわが大学の安田講堂よりもかえって格好がいいように思われる。デテイルがないだけに全体の輪郭だけに意匠が集注されるためかもしれない。 インパラという動物の跳躍も見物である。十数尺の高さを水平距離で四十尺も一飛びにとぶのである。何か・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・次にこの行列の帰還を迎える場面でも行列はやはりわれわれ観客の前を横に通過するのであるが、ここでは前と反対にヒロインがその行列の向こう側に見え隠れにあわただしく行ったり来たりしてカメラはこの女の行動と表情を子細に追跡する。そうして女の心の中に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・地下の坑道にいて日月星辰は見えなくてもこれでいくぶんの見当はわかるであろう。質量と力の計測にも必ずしも秤はいらない。われわれの筋肉の緊張感覚がそれに役立つ。 これらの原始的なしかし驚嘆すべき計量単位の巧妙な系統によって、われわれの祖先は・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・さらにもっともっと複雑な例を取って、たとえば人がその愛する人の死に対していかに感じいかに反応しいかに行動するかという場合になると、もはや決定さるべき情緒や行為を数量的に定めることもできないのみならず、これに連関する決定因子やその条件のどれ一・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・監督官が検査に来ると現に掘っている坑道はふさいで廃坑だということにして見せないで、検査に及第する坑だけ見せる。それで検閲はパスするが時々爆発が起こるというのである。真偽は知らないが可能な事ではある。 こういうふうに考えて来ると、あらゆる・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・その翌日になると一同で物理の講堂へ呼び出されて、当然の譴責を受けなければならなかった。その時の先生の悲痛な真剣な顔を今でもありあり思い出すことができるような気がする。それが生徒に腹を立ててどなりつけるのではなくて、いったいどうして生徒がそう・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・見るとそれは黄道に近いところにあるし、チラチラ瞬きをしないからいずれ遊星にはちがいないと思った。そして近刊の天文の雑誌を調べてみるとそれが火星だという事がすぐに判った。星座図を出して来てあたってみるとそれは処女宮の一等星スピカの少し東に居る・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・今度文学士何某という人が蓄音機を携えて来県し、きょう午後講堂でその実験と説明をするから生徒一同集合せよというのであった。これはたしかに単調で重苦しい学校の空気をかき乱して、どこかのすきまから新鮮な風が不時に吹き込んで来たようなものであった。・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・そしてその結果はたとえば大講堂や劇場の設計などに何かの有益な応用を見いだすに相違ない。 余談ではあるが、二十年ほど前にアメリカの役者が来て、たしか歌舞伎座であったかと思うが、「リップ・ヴァン・ウィンクル」の芝居をした事がある。・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
出典:青空文庫