・・・しかも、その並びかたについて編輯者は、一つも所謂気の利いた工夫を加えていないらしい。粋とか、よい趣味とかいう人造香料をも加えていない。諸問題は、生のまま、いくらか火照った素肌の顔をそこに生真面目に並べている。 それが、却って、云うに云え・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 常識で考えても、常に強い光りを眼に感じているガラス工、金属工などと、永年にわたって光線の不足な中に働いている炭坑夫などとの間には、同じ色彩に対してもそれぞれ異なった反応を示すであろうと思われる。又朝から夕方まで人工光線で生活するデパー・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ウィルヘルム二世は一八四七年、国内に信仰の自由を許す法律を公布した。ところが、僅か二年ばかりで一時的なその寛大な方法は急に反対の方向に働き出し、一八四九年からケーニヒスベルクの町だけでも何百回となく集会が禁止され、教会や学校が閉鎖され、国外・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・しかし、それはイギリスという国情、キリスト教の伝統、及ヨーロッパ戦争という諸条件の後に炭坑夫の息子ローレンスを生んだのであって、日本の自由主義と民主主義とを知らず、又一方に於てキリスト教の女性崇拝の伝統をも持たない社会の現実の中では、生活的・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
托児所からはじまる モスクはクレムリとモスク河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 二十六日 古川氏の原稿をしまう。とりに来ず。違約か。午後縫いものを始む。 二十七日 罹災民に送ろうと思う着物縫いにかかる。殆ど一日。処々へ見舞。 甲府の渡辺貴代子氏来罹災民への衣類寄附の為、三宅やす子、奥むめおその・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 伊豆地方の大震災 惨たる各地の被害 震源地は丹那盆地 死者二百三十二名 伊豆震災救済策 震災地方の納税減免 国庫負担法で業務教育費交付 両腕の動かしかたに共通の一種独特の職業的癖をもっている日本の列車ボーイ・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・ なるほど、これは尤なことだとして読んだ私どもは、翻って、第一、天皇というところに、その特権の身分が世襲であり、人間としての資質如何を条件ともせずに、天皇たる世襲者が、憲法改正から法律・政令・条約の公布以下、政治上の実権の重要な点を押えて・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・「英国人の着実な商魂が実際においてどれだけの働きをしているかと云うことは、炭坑夫安寧協会の仕事を見ても分る。炭坑主が一頓について一ペンスだけ出して独立な大きいビジネスをやってるんだ。」 しかし、その同じ着実な商魂が考え出した英国炭坑・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫