・・・の材料は、昔、高木さんの比較神話学を読んだ時に見た話を少し変えて使った。どこの伝説だか、その本にも書いてなかったように思う。○新小説へ書いた「煙管」の材料も、加州藩の古老に聞いた話を、やはり少し変えて使った。前に出した「虱」とこれと、来・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・蘭陵の酒を買わせるやら、桂州の竜眼肉をとりよせるやら、日に四度色の変る牡丹を庭に植えさせるやら、白孔雀を何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦を縫わせるやら、香木の車を造らせるやら、象牙の椅子を誂えるやら、その贅沢を一々書いていては、・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・からですが、高木卓氏が終りが弱いといわれるのも、あなたが題が弱いといわれるのも、つまりは結びの一句が「坂田は急ににこにこした顔になった。そうして雨の音を聞いた」となっていることをいわれたのであろうと思います。どういう雨かとのお問いですが、は・・・ 織田作之助 「吉岡芳兼様へ」
・・・親爺は六番坑で竪坑から落ちて来た坑木に脚をやられた。そして、三本脚の松ツァンと呼ばれる不具者になってしまった。「俺ら、トロ押せねえだ。」市三は、坑内へおりて来るまで、自分の細い腕を危ぶんだ。「……。」親爺は、燻った四畳半で、足のない・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ああ、僕の部屋の机の上に、高木先生の、あの本が載せてあるんだがなあ、と思っても、いまさら、それを取りに行って来るわけにもゆくまい。あの本には、なんでも皆、書かれて在るんだけれど、いまは泣きたくなって、舌もつれ、胴ふるえて、悲鳴に似たかん高い・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・室外の廊下に出て見ると高木さんや中川さんの顔も見えた。みんな外の方を向いて自分の顔を見ないように勉めているらしく思われた。ここで幌を着せられたから自分の眼界はただ方幾寸くらいのセルロイドの窓にかぎられてしまった。寝台はまた静かに持ち上げられ・・・ 寺田寅彦 「病中記」
・・・嘉吉は鉱山の坑木の係りではもう頭株だった。それに前は小林区の現場監督もしていたので木のことではいちばん明るかった。そして冬撰鉱へ来ていたこの村の娘のおみちと出来てからとうとうその一本調子で親たちを納得させておみちを貰ってしまった。親たちは鉱・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・すると小屋の中には、高木の甲助だの、だいぶ知っている人たちが、みんなおかしいようなまじめなような顔をして、まん中の台の上を見ているのでした。台の上に空気獣がねばりついていたのです。それは大きな平べったいふらふらした白いもので、どこが頭だか口・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・「奉公」の感覚を養成する教育でした。この場合の「奉公」は、公の一存在としての人民生活、市民生活への奉仕という近代民主主義の要素とはちがったものです。「公僕」という言葉が、民主日本になったからいわれはじめたけれど、その「公」というものが実感の・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・その殉死の理由は、それから三十年も昔、主命によって長崎に渡り、南蛮渡来の伽羅の香木を買いに行ったとき、本木を買うか末木を買うかという口論から、本木説を固守した彌五右衛門は相役横田から仕かけられてその男を只一打に討ち果した。彌五右衛門は「某は・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
出典:青空文庫